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#普通
野々さくら
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ありあ
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その手紙を読んだ瞬間、摩耶は張り詰めていたものが一気に崩れた。
「ぐすっ・・・」
手紙を握る指が震える。
「うわぁぁぁぁん、ごめん千秋!」
堪えきれなくなった摩耶は、その場にうずくまった。
「ごめんなさい!」
手紙を胸に抱きしめ、子供のように泣きじゃくる。
信愛は何も言わず、ただ静かにその姿を見つめていた。
やがて摩耶は、涙で声を震わせながら、これまで誰にも明かせなかった胸の内を吐き出し始める。
「私・・焦ってたの・・・」
一度口にしてしまえば、もう止めることはできなかった。
「どれだけ曲書いても、誰にも響かない。このまま
芽を出す事なく朽ちていくだけ・・・そう思ってた」
信愛は黙ったまま摩耶の言葉に耳を傾ける。
「そしたら千秋が曲を作ったから
聴いて欲しいって、そう言ってきた
それが『こころクリーニング』だった」
摩耶の脳裏に、あの日の記憶が蘇る。
◇ ◇ ◇
3年前。レコーディングスタジオでは千秋が嬉しそうに、自分で録音した『こころクリーニング』のサンプルトラックを摩耶に聴かせてくれた。
「ど、どうかな?まぁ、私歌は下手だからさ
そこには触れないでほしいけど(笑)」
曲を聴き終えた摩耶は、驚きを隠せなかった。
「すごいよ・・千秋。この曲めっちゃ良い」
「ほんと!?」
「すっごいよ千秋!千秋にこんな
才能があったなんて知らなかった」
「えへへ、そうかなぁ」
摩耶は興奮したように感想を口にする。
「天使が光を使って心を洗うって独特な世界観が
優しい千秋らしくて心温まる素敵な歌だね」
「ありがとう」
◇ ◇ ◇
それから千秋は、次々と新しい歌詞を摩耶のもとへ持ってくるようになった。
そしてそのすべてが、摩耶には眩しく見えた。
「それも全部が全部素晴らしい歌詞ばかり・・」
信愛は黙ったまま摩耶の告白に耳を傾けていた。
「それから私は・・一切曲を書けなくなった」
「え?」
「圧倒的な才能を目の前にして私は無力感に苛まれたの」
摩耶は自嘲するように、涙で濡れた顔を歪める。
「それから凡人がいくら努力しても
才能がある者には敵わない。そんな現実を
目の当たりにして、書けなくなっちゃったの」
「なるほど・・・」
「でも、それを千秋には話せなかった・・・」
摩耶は俯き、唇を噛んだ。
「話したりしたら、私を慕ってくれてる
千秋を悲しませる事になるって思ったから」
だから、何も言えなかった。
それでも千秋は、何も知らないまま次々と新しい歌を書き、そのたびに摩耶へ聴かせてくれた。
本当なら喜ぶべきだった。
大切な妹のような存在が、素晴らしい才能を開花させていくことを。
しかし摩耶は千秋の才能を純粋に喜ぶ事ができなかった。
むしろ恐怖さえ感じてしまっていた。
「それから私は次第に
千秋が書いた歌を聞くのが怖くなった」
摩耶の声が、かすかに震える。
「才能がない私を全否定されてるみたいで
聞くのが億劫になっていった」
憧れられるほど、苦しかった。
慕われるほど、自分の才能のなさを突きつけられているような気がした。
千秋が何の悪意もなく差し出してくる才能の輝きが、いつしか摩耶にとって、自分自身の無力さを照らし出す鏡になってしまっていた。
「でも、そんな劣等感は次第に嫌悪感に変わった」
摩耶は苦しげに顔を歪める。
「なんで千秋は私にばかり曲を聴かせたがるの?」
自分の中で膨れ上がった疑念が、少しずつ千秋の純粋な好意まで歪めていった。
「才能がない私を嘲笑いたいの?って」
本当は分かっていた。
千秋がそんなことをする人間ではないことくらい、誰よりも摩耶自身が知っていた。
「千秋がそんな子じゃない事くらい
私が一番分かってたはずなのに・・・」
摩耶の声が震える。
「純粋に理解者である私に聞いて欲しかった
ただそれだけだったのに」
それすら考えられなくなるほど、摩耶の心は追い詰められていた。
「私はそれすらも忘れるくらい
情緒が不安定になってたの」
信愛は何も言わず、摩耶の言葉を待った。
やがて摩耶は、罪を告白するように重い口を開く。
「それから私がした事は千秋が書いた曲を盗む事だった」
「なんでそんな事を?」
信愛の問いに、摩耶は俯いた。
「情緒不安定になった私は、ただひたすらに
千秋が私にばかり曲を聞かせる理由を考えてた」
どうして自分なのか。
「自分では歌えない歌をなぜ私に聞かせるの?
発表するわけでもなく楽曲提供するわけでもない
だったらなんで?って」
答えの出ない問いを何度も繰り返すうちに、摩耶は自分に都合のいい答えを作り出した。
「そこで私は無理やりその理由を作ったの」
「理由?」
摩耶は唇を噛みしめる。
「私に歌って欲しいから
千秋は私にばかり曲を聴かせるんだ!」
それが正しいのだと、自分自身に言い聞かせた。
「そうに違いない!って」
信愛は黙ったまま、摩耶を見つめている。
摩耶の目から、再び涙が零れ落ちた。
「サイテーだよね・・・」
声は、自嘲するように掠れていた。
「自分に才能が無いからって
才能ある千秋を自分勝手に憎んで・・・」
そしてその才能さえ、自分のものにしようとした。
「おまけに奪うなんてさ・・・」
摩耶はそれ以上何も言えず、俯いた。
自分を慕い、誰よりも信頼してくれていた千秋。
その純粋な想いを、自分は勝手な劣等感で歪めてしまった。
摩耶の胸を締めつけていたのは、才能への嫉妬だけではない。
自分が何より大切にするべきだった千秋の気持ちを、自ら裏切ってしまったという後悔だった。
コメント
1件
あああもう摩耶の心の内が辛すぎて泣ける😭💦 千秋の才能を眩しく思うほど自分を責めて、嫉妬と劣等感で歪んでいく心情がリアルすぎて胸が痛いよ… それでも最後に後悔を吐き出せたのは一歩前進だよね。千秋の純粋な好意を信じられなかった自分を責める摩耶の叫びが刺さった…! この先どうなるか気になりすぎるよ〜!