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「いってきまーす」
「気ーつけて」
「んふー。わかってるって」
いつもダルそうなルイが、ダルそうなのには変わらないが
学校に行くときや出かけるときなどは一言かけてくれるのが嬉しくて
いつもルンルン気分で学校へ行けるルビー。
「ルビー様ぁ〜。おはようございますぅ〜」
と両手を前に伸ばし、エジプトの王にひれ伏すようにお辞儀をする
ルビーと同じ制服を着た達磨ノ目高校の女子生徒。
「円ぁ〜。おはぁ〜」
「本日もお日柄良く」
「そうね」
このやり取りは定番である。
「そうだ。今度ドラム組み立てくんない?」
「ドラム?なぜに?」
「いや」
と話していると
「お。噂をすれば」
詩衣がいた。
「ん?」
円もルビーの視線のほうを向く。
「おぉ!うたいー!」
駆けて行って詩衣に抱きつく円。
「円ー。おはよー」
「おはよぉ〜。今日も可愛い」
と自分よりも身長の高い詩衣を撫でている円。すると
「おぉ〜。チビが自分より背ー高い人撫でてる」
という声がして振り向く詩衣、円、ルビー。そこにはミルクティー色の髪をした
棒付きキャンディーを舐めているのか、白い棒を口の右端から出した詩衣、円、ルビーを同じ
達磨ノ目高校の制服を着た女子生徒が立っていた。
「げっ。出たなギャルめ」
円が言う。
「うるへー(うるせー)。円には言われたくないわー」
「おはよー真夜衣(まよい)」
ルビーが軽く手を挙げ挨拶する。
「ルビー様ー。おはよー」
「まよちゃん、おはよー」
「うたいーおはー」
ギャルだがテンションが高くないタイプのギャルなため
喋り言葉に感情の起伏、抑揚が感じられないが、これが平常運転である。真夜衣は円を見下ろし
「チビ、おはよー」
と軽く手を挙げていった。しかし円から見たら威圧的。
「んだこいつ。誰がチビだよ!このギャルが!」
「悪口になってねーよ。あとこん中でチビは円しかいねーし」
「悪口苦手なだけだし!優しい優しい非ギャルなので!」
「ギャルが優しくないみたいな言い方だな」
「まよはどう考えても優しくない!」
「すまん」
「すぐ謝んな!うちが悪いみたいに聞こえるだろ!」
「すまん」
「またー!てかさー1年ときから思ってたけど、ギャルならおっぱいデカくあれよ。
なんで私と同じくらいなんだよ」
「なんでギャルは胸デカくないといけないんだよ。あとうち(達磨ノ目高校)共学なんだから
朝からデカい声で「おっぱい」とか言うのやめろ。せめて「胸」って言え」
「うわぁ〜なに清楚ぶってんの?ギャルならギャルらしく下ネタ大好き尻軽ビッチでいろよ」
「全国のギャルに謝れよ。それに私、彼氏に一途なので」
「うわぁ〜!出た!出ました!彼氏マウント」
「そんなつもりねーけど」
「あるね!高校生なんて彼氏いるいないでだいぶ変わるからね?地位」
「なんだ地位って。くだらねーな」
「出た!ギャルは常にトップってか?てかギャルってなんなの?
カースト制度に含まれない感じ。「私たちは別枠なのでー」的な」
「知らんよ。あと私別にギャルって自覚ないし」
「ない!?1年のときからギャルでスカしてるくせに?」
「スカしてるつもりもないけど」
と言い合いながら歩いていく円と真夜衣。
「あの2人仲良いのかな?」
と円と真夜衣の後ろ姿を見ながら言う詩衣。
「仲良いでしょ。1年の頃、小(こ)ギャル(円)と大(おお)ギャル(真夜衣)って言われてたし」
「あぁ〜なんか言われてた気もする」
「ま、円はギャルじゃないって言ってるけど、口にピアスしてるし
そもそも耳もピアス多いし、てかそもそも金髪だし、ギャルに見られても仕方ないよね」
「たしかに。でもたしか1年の頃は口にピアスしてなかったよ」
「あ、そうだっけ?」
「うん。たしか冬休みに開けたって言ってた気がする」
「なんか口にピアスしてんのが円のデフォ(デフォルト)な気がして」
という会話をしながら学校へと入っていった。
「ルビーちゃんも今ごろ教室で友達と駄弁ってんだろうなぁ〜」
大学では保と歌乃と那緒が並んで座っており
「詩衣と話してるだろうね」
なんてことを話していた。
「めっちゃ当たり前だけどオレたちが知らない友達とかもいるんだろね」
保が言う。
「めっちゃ当たり前だね」
歌乃が笑う。
「高校かぁ〜」
那緒が斜め上を見ながら言う。
「高校。オレたちどんなだった?」
と天井を見ながら考える保。
「どんなって…」
同じように天井を見ながら考える歌乃。
「…」
那緒も天井を見ながら考える。
「「「全然変わってなくない?」」」
考えがまとまった。
「ま、他に仲良い男子いたけどさ」
「そうね。保がクラスの中心的な存在だったもんね」
「そうそう。でもルイが全然あんな感じだから、結局お昼はルイと2人だったし」
「私たちはー…どうだった?那緒」
「同じじゃない?私が近寄んなオーラ出してたっぽいし。…全然そんなことないけど。
だから私は1人だったし、でもうたは保と同じでクラスを沸かせるタイプだったから
友達は多いほうだったけど」
「でも那緒とお昼食べてたねぇ〜」
「ありがたい限りで」
「ま、1番仲良くて1番大切な親友ですからー?」
と歌乃が那緒に密着する。
「あ、ありがと…」
照れて歌乃のほうから完全に視線を逸らし、デクレッシェンド気味に言う那緒。
「んん〜照れちゃってぇ〜。可愛いんだから」
「那緒そーゆー可愛いとこどんどんルイに見せてったほうがいいんじゃねーの?」
保が言う。那緒がビクッっとする。
「そうそう。那緒可愛いんだから」
「は、はぁ!?な、ななななにを、だだだだ誰に、なんだって!?」
あからさまである。
「そーゆーとこもかわゆい」
「ルイは…あいつはわからんのよなぁ〜…」
保は今ごろ寝ているであろうルイを想像する。
「人の気持ちわからんってタイプじゃないし。
めっちゃ優しい面あるし、気も遣…うときはほぼないけど気も遣えるし」
「那緒がルイのこと好きになったのもルイの優しさだもんね?」
「…。まあ、そうだね」
「あ!好きって認めたなぁ〜」
と両人差し指で那緒をツンツンする歌乃。
「!ちがっ」
と否定する那緒だが、歌乃と保からしたら
いや、バレバレすぎるって
と言うほど顔が赤くなっていた那緒。そんな那緒に想いを寄せられているなんて梅雨知らず
いつものように昼に起きて、歯を磨いて顔を洗ってリビングへ行くと
「おはよールイー」
保だけがキッチンでフライパンに菜箸を入れてかき回していた。
「んー」
ソファーに行って寝転がる。
「ハレルヤ、テレビをつけて」
「ハイ」
お昼のバラエティ番組を見るルイ。
「ちなみに今日は我が愛しのうたと那緒は3限講義なので来ません。残念」
「別に残念ではないけど。…あと今の言い方だと那緒も保の愛しの人みたいに聞こえる」
というルイのキッチンまで届くか届かないかくらいの声量の言葉が辛うじて聞こえた保は
「う…そ…だろ…」
と菜箸を止める。そして天井に向かって
「うた!ごめん!オレが愛しいのはうただけだからね!今のは言葉の綾だから!」
と言った。ルイは気にせずテレビを見ていた。
「はーい。できましたよぉ〜。今日は保くん特製アラビアータでぇ〜す」
匂いにぐぅ〜とお腹が鳴るルイ。スッっと立ち上がって、サササッっとキッチンへ行って
フォークとスプーンを2人分持ってきて保と自分の席に置く。
「さんきゅ」
「ん。いただきます」
「どぞぉ〜」
と言ってまずはルイが食べるのを見る保。
「うん。…。ん?」
もう一度スプーンとフォークを使いパスタをフォークに巻き付けて口に運ぶ。
「ど、どうかした?」
保もいつもみたいに「うん。美味しい」という反応がなく困惑する。
「…あんま辛くない。美味しいけど」
「美味しい」と聞いて胸を撫で下ろす保。
「いただきます」
と呟いてフォークだけでくるくるとパスタを巻き付ける。
「いや、オレ辛いの苦手じゃん?だけどアラビアータの唐辛子のスパイシーな香りと
にんにくのパンチの効いた香りのパスタ好きだから、保くん特製として辛さ抑えたアラビアータになってます」
と言って口に運ぶ保。
「…まあ…美味しいけど」
食べ進めるルイ。
「なんか刺激が足りないって顔だな」
「まあ…。アラビアータって聞いたし」
「にんにくトマトパスタ?」
「うん。そっちのほうがしっくりくる。てかアラビアータの辛さもダメなん?」
「別にダメってわけじゃないけど、汗すごい出るんよ」
「へえぇ〜。ま、発汗いいしな。保」
「八巻?なんの八巻?」
「アホか」
そんなこんなで
「ご馳走様でした」
と食べ終え、保がお皿を洗い、ソファーで2人で寛ぐ。
「そういえば辛いの苦手なのに、アラビアータなんていつ食べたん」
「あぁ。うたが辛いの好きだから、デート行ったとき食べた」
「うたがアラビアータ?」
「そうそう。オレはカルボナーラだったかな?」
「貰ったん?」
「あーんしてもらった」
「聞いてない」
「聞いただろ」
「惚気やん」
「いや、その一口で額に汗ぶわぁ〜って出て」
「へぇ〜。うたはへーきな顔して?」
「うん。しかも辛さ増しよ?」
「すげぇ」
「うたの全部好きだけど、辛いもの好きってとこだけはシェアできないんだよなぁ〜」
「聞いてない」
一方歌乃と那緒は3限の講義を終えて、カフェで駄弁っていた。
「今日保はアラビアータ作ったんだって」
歌乃が那緒にスマホを見せる。そこにはアラビアータを盛ったお皿を持った保の自撮り写真が写っていた。
「相変わらずカッコいい。保存保存」
バカップルである。
「よくその熱冷めないよね」
と半ば呆れ、でもどこか羨ましさを交わらせた言い方で言ってワッフルを食べる那緒。
「冷める?」
「冷める」って言葉なんて知りませんが?みたいな顔をする歌乃。
「中…2だっけ?付き合い始めたの」
「そ!中2の夏休み、8月17日」
「日付まで覚えてるのね」
「当たり前じゃん!毎年その日デートしてるもーん」
胃もたれした皆様。誠に申し訳ありません。
「なんでそんな続くん」
「お?秘訣?教えてほしい感じぃ〜?」
嬉しさが滲み出て、ウザいほどにニマニマする歌乃。
「…まあ…。参考程度に」
「むふぅ〜」
得意げに鼻の穴を広げて鼻息を荒くする歌乃。
「…」
「…」
しかし2人の間に沈黙が訪れる。
「え?」
思わず那緒が口を開く。目の前の歌乃はめちゃくちゃバカ面で固まっていた。
「え?先輩としてのアドバイスというか、秘訣は?」
「…」
「え?」
「…思いつかん」
「え」
「いや、保と付き合って5年、今年で6年目になるけど
なんでこの6年間熱が冷めてないのか考えたけど、全然わからんかった」
「そういうもんなのか」
アイスカプチーノを容器のストローでくるくるとかき回しながら
「いや…特別なことはなんもしてないんだよね」
と保とのデートなどを思い返す。
「いや6年でしょ?なんかあるでしょ」
「んん〜…」
アイスカプチーノをストローでくるくるかき回す。
「まあ、誰よりも保に好きとは言ってる」
平然と言う歌乃に「うげぇ〜」という顔を向ける那緒。
「なんその顔!」
「ワッフルで胃もたれしそう…」
「でもぉ〜…考えたらそれしかないんだよねぇ〜…」
フォークやナイフ、スプーンなどが入っている竹細工のようなカトラリーケースから
ナイフとフォークをおもむろに取り出し、那緒のワッフルを一口切り分けて口へ運ぶ歌乃。
「おい。考えながら無言で食べるなよ」
「胃もたれするって言ってたからお手伝い?」
「ま、いいけど」
今度はバニラアイスをつけて一口食べる。
「でもぉ〜…それが大事かもしんない」
「す、す、す、す、好きっていうことが?」
「好き」って言葉に耐性無さすぎでしょ
と思う歌乃。
「でも、そう。誰よりも好きっていう気持ちを強く持つってのと、それを思ったときに伝えるってことかな」
「…重くない?」
「…重いかもね」
「ま、単純に保とうたの愛称がいいんだろうね」
「まあ、それもあるね」
「愛称か…」
ルイの顔が思い浮かぶ那緒。
「ルイ」
「ん?」
「す…す、す…」
「す?」
「す…す…」
赤い顔をして口を尖らせる那緒の手を握るルイ。
「す!」
「なに?」
優しい口調で微笑みかけるルイ。
「す…」
ルイの顔が近づく。那緒の唇にルイの靴が触れる寸前で
「愛称かぁー!」
と大きな声で自ら妄想の世界から脱脚した。店中の注目を集める。
「那緒、めっちゃ顔赤いけど、なんか妄想でもしてた?」
ニマニマ顔の歌乃。
「べ、別に…」
「このむっつりさんめ」
「ちがっ!」
と盛り上がっていた。