そして次の週の火曜日がきた。この日理紗子は健吾と銀座の美和の店へ行く約束をしている。
パーティーに着ていく服をまた健吾に買って貰うのはかなり気が引けたが、健吾がどうしてもと言って引き下がらないので理紗子はもはや諦めの境地でいる。
美和の店の服の宣伝にもなるからと言われたらしょうがない。だから諦めて素直に従う事にした。
前回美和の店に行った時はコーヒーのシミがついた白いパンツの酷い格好だったので今日はもう少しましな服装をしようとクローゼットを物色する。
あれこれ悩んだ末、七分袖の黒のサマーセーターにベージュのプリーツスカートを合わせる事にした。シックでシンプルな装いなら失礼がないだろう。
パーティー当日は健吾に買ってもらった黒蝶真珠のペンダントとピアスを着けていくので今日も身に着ける事にする。
銀座までの移動は電車かタクシーだろうと思っていたので理紗子は履き慣れたベージュのパンプスをシューズボックスから出してさっと磨いておいた。
健吾が迎えに来るまであと30分あった。
その間の時間を無駄にしないようにと理紗子はパソコンへ向かって執筆を再開した。
約束の時間ちょうどにインターフォンが鳴った。
理紗子は健吾に「今行くー」と告げてから部屋を出てマンションのエントランスへ向かった。
エレベーターを降りるとエントランスには健吾が立っていた。
ジーンズの上に白シャツを着てサングラスをかけている。日焼けした肌に白シャツは反則だ。
そのシンプルな装いからはイケメンスパダリ男のワイルドかつオトナの色気をムンムンと解き放っていた。
(やばっ、鼻血出そう)
理紗子は一瞬クラクラときたが、すぐに気合を入れ直し背筋をピンと伸ばすと、
「お待たせ」
となんとか挨拶を返す。
「忙しいのに悪いね」
健吾は笑顔で言いながらつかつかと理紗子の傍まで近づいて来ると、いきなり理紗子の髪を掻き上げて首筋に顔を近づける。そして言った。
「もうほとんど消えたか」
健吾はキスマークをの痕を確認していたようだ。しかしそうとは知らない理紗子は急に健吾に触られたので顔を真っ赤にしている。そしてプンプンと怒りながら言った。
「本当にもうこういうのはやめてね!」
「はいはい、わかりました、大変申し訳ありませんでした」
健吾はムッとしたふりをして口を尖らせて言った。
そしてエントランスを出て行こうとしたので理紗子も慌ててついていった。
そこで理紗子は目をパッチリ見開いた。
なんと目の前にはワックスでピカピカに輝いた黒いマセラティが停まっていたからだ。
「車で行くの?」
「そうだよ」
健吾はそう答えると助手席の扉を開けて理紗子に乗るよう促した。
理紗子が助手席へ座ると健吾はうやうやしくドアを閉める。
(王子様とマセラティ? 私はお姫様? キャッ!)
理紗子は一瞬顔がニヤけてしまったが慌てて緩んだ顔を元に戻す。
そして車内を見回した。
(これがファーストフードのドライブスルーへ行く噂のマセラティなんだ)
シートは上質な革張り、まだ新車の香りが残る車内、目の前に見える機器類は洗練されたデザインのかなりの高級仕様だ。
そこで健吾が運転席に乗り込んで来た。そしてすぐにエンジンをかける。
エンジンの始動音は今までに聞いた事がないエンジン音だ。石垣島で乗ったあのドイツ製の高級車とも全く違う音だった。
一般的なエンジン始動音はブロロローンといったイメージだが、この高級車の音は「ガオーッ」という音だった。
(ライオンみたい)
理紗子はニヤける。そしてすぐにスマホで検索した。
『マセラティの値段』
そしてすぐに表示された金額を見て驚愕の表情を浮かべると慌ててその画面を閉じた。
(郊外のマンションか戸建てが買えるわ)
車にこんな金額をかけるのだから彼にとっては理紗子に買う服の値段など『端数』か『誤差』でしかないだろう。
そう思うと理紗子はホッと小さく息を吐いた。
「理紗子も俺もまだ真っ黒だな。この分だとパーティーの時にもまだ日焼けしたままだろう。だからやっぱり俺も沖縄に行っておいて正解だったよ」
「二人で南の島でラブラブアピール?」
理紗子は少し嫌味っぽく言った。しかし健吾は全く気にする様子もなく答える。
「だな。なんならもう一度キスマークをつけとくか?」
「こらっ! 調子に乗らないの!」
そこで健吾が声を出して笑った。
「日曜日のパーティーは何時からなの? 昼? それとも夜?」
「夜の7時からだ。場所は美和さんの自宅マンションだよ。美和さんのご主人は大物投資家でね、今は港区の海沿いのタワマンに住んでいるんだ」
「今は…って?」
「美和さんのご主人は今は不動産投資をメインにやっているからいろんな場所に物件を持っているんだ。だからその時々の気分で住み替えるんだよ。今住んでいるのはタワマンの中層階だから広いルーフバルコニーがあって海も見えるからきっと夜景が綺麗だろうなぁ」
「なんか凄い世界。そんな中に私なんかが行ってもいいのかな?」
「もちろん。だって理紗子は人気作家なんだから堂々としていればいいんだよ。そう言えば俺の親友の英人っていう奴が君の映画を夫婦で観に行ったらしい。観終わって泣いたって言ってたぞ」
「へぇーそれは嬉しいな。でもご夫婦で観に行くなんて仲良しなのね」
「うん、あの夫婦は子供もいるのにいつもラブラブだよ」
「そうなんだ」
「英人の奥さんは唯さんと言って今度のパーティーに来るからね。確か理紗子よりも一つ年上だったかなぁ? いい人だから仲良くしたらいい」
「そうなんだ。ちょっと楽しみ」
理紗子はフリーになってからというもの同年代の女性と知り合う機会がほとんどなくなってしまった。
だからパーティーで同年代の女性に会えると知り嬉しくなる。友達になれたらいいな…理紗子はそう思った。
車が銀座へ到着すると二人は車を降りて美和の店へ向かった。
コメント
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マセラティに乗って 銀座へ お買い物デート💑💖キャアー ステキ....✨ パーティー用のドレス選び、どんなお洋服を買って貰えるのかなぁ⁉️ 楽しみですね~👗💖✨ 💋マーク、会って直ぐに確認していたよね❓️😁 もぅ~謙吾さんったら~🤣🤣🤣w また お印🌺付ける気 満々 ....⁉️😘♥️♥️♥️🤭ウフフ
最初にした事がキスマーク💋の確認って🤭もう❗️もう❗️もう〜‼️バシバシバシッ ジーンズに白シャツにサングラス🕶️にマセラティ✨ もう私だってクラクラ🤩やばっ、鼻血出そう‼️だよ😍 ほんとイタ車のエンジン音はガォーッ🦁身体中に低音が響いて堪らないよね❗️理紗子ちゃん‼️ 先ずはドレス👗✨プレゼントの黒真珠が妖艶に見えるのとかかな〜。 さりげなくペアルックみたいにするのかな〜。2人共日に焼けてるからどうみてもラブラブカップルにしか見えないよね〜ᯒᯎ″❤︎ᯒᯎ″❤︎
結局理沙ちゃんは美羽さんの服の宣伝という口実で買ってもらえるんだね👗ウラヤマシイ💕 💋マークは消えちゃったからまたきっと付けるよね、違うシチュエーションで笑😆❤️ 契約ではこのパーティーが終わるまでだったハズ。 健吾はこのパーティーでどう理沙ちゃんと距離を詰めるのかとくと手腕を拝見👀✨