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夜はすっかり更けていた。


風が止み、

すべての音が

薄い布をかぶせられたように

弱くなる。


エリオットは

静かに眠り続けている。


規則的な呼吸が

ゆっくりと胸を上下させ、


先ほどより

ずっと穏やかだった。


イチは

そのすぐそばに座り、

眠らないまま

彼を見守っていた。


まばたきの少ない目が

時折、

彼の喉元へ視線を落とす。


息が

止まっていないか――


その確認だけが

今の彼女の全てだった。


窓の外では

月が高く昇り、


木々の影が

ゆらりと揺れる。


夏の夜は

まだ熱を残していたが、


部屋の空気は

静かで冷たい。


ときどき、

エリオットの呼吸が

小さく乱れる。


イチは

首をわずかに傾け、


その変化を

逃さないよう

耳を澄ませた。


彼が苦しげに息を吸うたび、


自分の胸が

ひどく痛むような気がする。


その痛みの意味は

わからない。


ただ――


放っておきたくない。


その気持ちだけが

ずっと胸の奥にある。


長い沈黙が続いた。


やがて

エリオットの呼吸は落ち着き、


再び眠りの深い方へ

すとん、と沈んでいった。


イチは

ゆっくりと目を閉じるように

まぶたを落とし――


けれど眠らなかった。


まるで

自分が眠った瞬間、


エリオットの息が

止まってしまう気がして。


時間だけが

静かに溶けていく。


そのとき――


外で枝を踏む音がした。


ピシ、と

乾いた小さな音。


イチは

反射的に顔を上げ、

窓のほうへ視線を向けた。


月明かりに照らされた森は

ただ木々の影を揺らすだけで


誰の姿も

見えない。


——もう一度、

ピシ、と音が鳴る。


確かに

誰かが

動いている気配。


風ではない。


イチは

ゆっくり立ち上がり、

足音を立てずに窓へ近づく。


木々の隙間へ

目を凝らす――


何かが

こちらを見ていた。


人影のようで、

影のようでもある。


月を背にしていて

形ははっきりしない。


視線だけが

異様に冷たく


イチへまっすぐ注がれていた。


イチが一歩踏み出そうとした瞬間――


その影は

木々の奥へ静かに消えた。


追うことも

声を上げることもできない。


イチはただ窓辺に立ち尽くし、


森の中へ

消えていった気配を

じっと見送った。


夜の闇は何事もなかったように

再び静寂を取り戻す。


それでも

イチは寝室へ戻らなかった。


扉のそばに立ち、

目を凝らし、


もう一度

来るかもしれない“何か” を


ただ

じっと待ち続けた。


彼を守るために。


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