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Scene 20:審査開始──最初の一枚で彼は手を止める
コンテストの審査が始まった。
応募作品は数百枚。
どれも個性があって、
どれも一生懸命描かれている。
僕は淡々と見ていく。
プロとして、冷静に、丁寧に。
──そして、
ある一枚で指が止まった。
ピンクの背景。
柔らかい線。
切長のアーモンド型の瞳。
ふんわりした髪。
優しい表情。
胸の奥がふっと温かくなる。
「……あの子の絵だ」
一瞬で分かった。
SNSで見たあの絵と同じ“空気”があった。
いや、それ以上に、以前の職場で見ていた“後輩の有莉澄さんの優しさ”が滲んでいた。
僕は思わず微笑む。
「描いてくれたんだ……」
嬉しさが静かに広がる。
Scene 21:応募者情報を確認する──名前を見た瞬間、胸が跳ねる
審査のため、作品の詳細ページを開く。
タイトル。
制作コメント。
使用ツール。
そして──
応募者名。
その名前を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「……え?」
画面を二度見する。
三度見する。
間違いない。
見覚えのある名前。
以前の職場で、毎日「大丈夫?」と声をかけていた後輩の有莉澄さん。
ミスをフォローしていた後輩の有莉澄さん。
優しくて、真面目で、少し不器用で、でも一生懸命だった後輩。
「……本当に、有莉澄さんなのか」
胸が熱くなる。
Scene 22:彼は静かに確信する
作品の線を見返す。
表情の柔らかさ。
色の置き方。
空気の温度。
全部が、
僕が知っている“後輩の有莉澄さんの優しさ”そのものだった。
「あの絵、有莉澄さんが描いたんだ……」
嬉しさと驚きと、少しの懐かしさが混ざって、胸の奥がじんわり温かくなる。
Scene 23:彼は思う
「有莉澄さん、こんな絵を描くんだ……
こんなに優しい線を持っていたんだ……」
以前の職場では、
有莉澄さんが絵を描くなんて知らなかった。
でも今は、はっきり分かる。
この線は、誰かを大切に思って描く人の線だ。
そして──
その“誰か”の中に、僕が少しでもいたのだとしたら。
胸の奥がじんわり熱くなる。
作品をもう一度見つめた。
細部まで、ゆっくりと。
まるで、そこにいる“有莉澄さん”に触れるように。
「……変わってないな」
優しさも、真面目さも、あの頃のまま。
ただ、絵の中の有莉澄さんは、あの頃より少しだけ強く、少しだけ柔らかく見えた。