Scene 24:静かに息を吸う
作品の前で、しばらく動けなかった。
胸の奥に広がる温度が、懐かしさと嬉しさと、少しの切なさを混ぜて揺らしてくる。
「……会いたいな」
声に出した瞬間、自分でも驚くほど素直な響きだった。
審査員としてではなく、昔の先輩としてでもなく、ただひとりの人間として。
あの頃、毎日「大丈夫?」と声をかけていた子が、今こうして“作品”として自分の前に戻ってきた。
その事実だけで、胸がいっぱいになる。
画面をそっと閉じた。
でも、心の中ではまだ、有莉澄さんの絵の色が静かに揺れていた。
「……話したいな。
ちゃんと、もう一度。」
その願いは、審査とは関係のない、僕自身の気持ちだった。
Scene 25:彼は迷う──でも、迷いきれない
作品ページを閉じたあとも、胸の奥では絵の色が静かに揺れていた。
ピンクの背景。
柔らかい線。
優しい表情。
それらが、
まるで呼吸するように
心の中で残り続ける。
椅子にもたれ、天井を見上げる。
「……どうするんだよ…」
審査員としては、
応募者に個人的に連絡するなんて
本来はありえない。
でも、
“ハム🐹スターさん”としての有莉澄さんは、
すでに僕のSNSに存在している。
DMの履歴も残っている。
つまり──
連絡しようと思えば、できてしまう。
その事実が、
胸をさらにざわつかせる。
「……いや、でも……」
職場での有莉澄さんの姿が浮かぶ。
真面目で、
一生懸命で、
少し不器用で、
でも優しくて。
あの頃、
僕は有莉澄さんに何度も声をかけた。
「大丈夫?」
「困ったら言ってね」
その言葉の裏にあった気持ちを、
有莉澄さんは知らない。
そして今、
有莉澄さんの絵が、
その“知られなかった気持ち”を
静かに揺り起こしてくる。
ゆっくり息を吐いた。
「……会いたいなんて、言えるわけないだろ」
でも、
言えないはずの言葉が、
胸の奥で何度も繰り返される。
会いたい。
話したい。
あの頃より、
ちゃんと向き合いたい。
その願いは、
審査とは関係のない、
僕自身の気持ちだった。






