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朝の教室。ざわめきの奥で、言葉のない圧が満ちていた。椅子がひとつ、故意に隅に引かれている。誰がやったのかなど、聞くまでもない。遥の席だった。椅子の座面には、白い液体が垂らされていた。何かを連想させるように――生ぬるく、悪意に満ちていた。教室中が笑っていないのに、嘲っているようだった。


遥は何も言わず、その椅子を見下ろしていた。表情は変わらない。ただ、少しだけ視線を逸らした日下部の横顔を、蓮司は後ろの席から見ていた。


「……何も言わねぇんだな、お前も」


蓮司のつぶやきは、誰にも聞こえなかった。


2時間目、授業中。日下部が黒板に呼ばれている間に、机の引き出しに誰かが仕込んでいた。終わって戻ると、中からクラスの誰かの体操服が――誰のかは明白だった。誰かのスマホがカシャッと音を立てた。


「……やっぱり、そういうの、好きなんだ」


女子生徒のひとりがつぶやいた。誰も名指しはしない。でも、視線は遥と、次いで日下部へ。


「ふたりでやってるって、そういうこと?」


にやけた男子がひとり、声を上げる。


日下部は反射的に机の引き出しを閉じたが、その動きが「動揺」として教室に刻まれる。否定の言葉は、言い淀みの中で失われた。遥は黙っていた。まるで、自分のことではないように。


蓮司は、何もしていない。ただ、偶然をつなぎ、誰かの「好奇心」に少しだけ火をつけただけ。


「教室ってさ、退屈だとすぐ飽きるから。ちょっと面白い話題があったほうが、みんな生き生きするよな」


放課後、屋上。日下部が遥を探しているのを見ながら、蓮司は笑っていた。歪みもなく、ただ「満たされた」顔で。


教室の空気が、確実に変わっていた。遥と日下部は、もはや「静かな被害者」ではない。


――“なにかしたらしい、ふたり”。


そのレッテルが貼られた瞬間から、正義の名を借りた暴力は加速する。正義と退屈しのぎのあいだで、クラスは一枚岩になっていく。


遥の背中に、落書きがされる。「性癖歪みすぎ」「犯人はこいつら」。

日下部の机には、印刷された写真――遥と並んで歩いている、ただそれだけの瞬間が、歪んだキャプション付きで貼られていた。


「もう、汚れてんでしょ?」


「どうせ好きなんだろ?こういうの」


言葉が刃物になるまでに、時間はかからなかった。

日下部のこぶしは震えていた。でも、誰にも届かない。ただ遥の横顔を、痛いほどに見つめていた。


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