テラーノベル
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朝。玄関に並んで立つふたり。
「いこっか、日本」
空は白いイヤホンの片方を日本に差し出した。
日本はそれを受け取りながら、ほんの少し首をかしげた。
(……空さんと一緒に登校するのは、初めてかもしれない)
周囲から見れば、ただの仲のいい兄弟。
けれど日本の胸には、鈍い違和感があった。
通学路には、春の終わりを知らせる風が吹いていた。
「なぁ、日本。僕らって、どこまで似てると思う?」
「……?」
「性格とか、思考とか、好きなものとか。僕ら、本当は似てない?」
「……分かりません。でも、違うところの方が多いと思います」
「そっか。でもさ、僕は――」
空は日本の指先にそっと触れた。
「日本のこと、いちばん近くにいたいって思ってる」
日本は何も答えなかった。けれど、その手を引っ込めることもしなかった。
校門をくぐった瞬間、教室の空気が変わる。
「……あれ、珍しく一緒だ」
「え、日本と空って、そんな関係だったっけ?」
囁きと視線が、すぐに降り注ぐ。
(……やっぱ、変に思われるよな)
日本はうつむいたまま、空のあとについて席に着く。
だが、そこにはすでに待っていた者がいた。
海。日本の兄であり、いつもは干渉してこない彼が、今日は廊下からじっとこちらを見ていた。
その目は鋭く、どこか哀しげだった。
昼休み。屋上にて。
空がパンをかじりながら笑う。
「日本、今日はちゃんと笑ってるな」
「……うるさいです」
「やっぱり一緒に登校して正解だったね」
「……」
「このまま、全部僕とだけで完結させちゃお?」
その言葉が、風に乗って耳に残った。
(全部“僕とだけ”で……)
その夜、日本は眠れなかった。
何かが少しずつ、狂い始めている。
けれど、それを壊したくなかった。なにより――
(ぼくには、もうこの関係しかない)
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