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夜。時計の針は、日付をとうに越えていた。
日本の部屋には小さな灯りがついている。机の上には教科書もペンもあるが、何も手につかないまま時間だけが過ぎていった。
(……明日も、一緒に学校行くのかな)
(空さんが、隣にいてくれるなら、それでいい気がしてしまう)
“それでいい”という感覚が、だんだんと日常に染み込んできていた。
でも、それは「普通」ではなかった。
トン、と軽くドアがノックされる。
「日本、起きてる?」
「……うん」
扉が開く。パジャマ姿の空がふらりと入ってきた。
「お風呂、いっしょに入ろうと思って」
「え、なんでですか?」
「だって最近、日本の顔見てないと眠れなんだ」
日本は驚いたように目を見開いたが、拒否の言葉は出てこなかった。
空はにっこりと笑って、日本の手を引く。
(拒まなかったのは、僕も――そうしてほしかったから)
翌朝、食卓に3人がそろっていた。
陸は新聞をめくりながら、ちらと日本を見た。
「最近、学校はどうだ?」
「……まぁまぁです」
「空と一緒に登校してるって聞いたぞ」
空がパンをかじりながら無邪気に笑った。
「日本が不安そうだったから、俺が守るって決めたんだ」
その言葉に、日本は顔を伏せた。
「……そうか」
陸の声は、いつもより低かった。
それに気づいた海が、コーヒーを口にしながら言う。
「日本。もし“しんどい”と思うことがあれば、言っていいぞ」
「しんどくなんて……ありません」
即座に返す日本の声は、どこか震えていた。
空が隣で肩を寄せてくる。
「な? 日本は僕が守ってるから大丈夫やろ?」
(違う……そうじゃないのに)
言えなかった。
その言葉を出せば、すべてが壊れてしまう気がした。
(でももう、どこが“壊れてない”のかもわからん)
夜。廊下で、陸と海が話していた。
「……空、日本に入り込みすぎてる」
「そうだね。日本も、あの状態はダメだと思う」
「俺が帰ってきた意味……まだあるのだろうか」
海は言った。
「あるよ。日本守れるのは、“俺達”だけだから」
その言葉に、陸は拳を握りしめた。