第11話:始まりの杭
☀️ シーン1:荒野に降り立つ者たち
空は広く、風は乾いていた。かつて戦火に焼かれ、誰も住まなくなった未開の荒野――そこに、ふたつの影が立った。
ひとりは褐色の肌にゴーグルを額へ、作業用の厚手ジャケットを羽織る男。腰にはツールベルト、手には古びた杭の設計端末。
「ええ眺めやなあ……何もない。せやから、なんでも作れる」
関西弁で笑うのは、ケンチク。碧族の都市を築くシティデザイナーだ。
隣には、黒髪を束ねた長身の青年。青と白のフラクタル設計スーツに端末ケーブルを何本も携え、銀縁の眼鏡の奥で冷静な光を灯している。
「……風速18メートル。地熱低下。碧素反応……極めて不安定。ここ、本気でやるのか?」
冷静に告げるのは、アセイ。都市の内部構造とエネルギー制御を司るフラクタルプログラムデザイナー。
ふたりの端末に、女性の声が届いた。
「都市建設ポイントに到達。任務コード:碧律10。現地状況、建設適正:32%。初期杭の打ち込みには十分な“意志強度”が求められます」
すずかAI――建築支援型フラクタルAI。落ち着いた口調のその声は、冷静な判断と、時折にじむ温かさを持ち合わせていた。
「意志強度て……精神論やんけ」ケンチクは笑いながら、腰から杭の端末を取り出した。
🛠️ シーン2:処理後、再び集う
数時間後、旧通信塔跡地に重機の音が響いた。
「おぉっぺぇぇぇぇ!ここの地面、まるでケーキみたいに柔らけぇ!」
碧の重機義手を操るゴウが、笑いながら叫んだ。筋骨隆々、褐色の肌にパワー全開の兄貴分。
「分析完了っぺ。地下フラクタル層、広いけど“意思”が薄い。杭がはね返される可能性、大」淡々と告げるのはギョウ。細身で銀縁眼鏡、手には常にスキャナーと解析デバイス。
「杭。持ってこい」短く告げるのはキョウ。無口で中肉中背、マスクとキャップに身を包み、背中には警報装置。
3人――処理後人機械フラクタル化チーム。都市の“裏”を支える現場のプロフェッショナルたちが再び揃った。
瓦礫の山が遠くに残っていた。
「ここ、かつての人間都市の端やっぺな。崩れてるけど、構造ごと埋まってるかも」
ギョウが地中スキャンを始める。
アセイが端末を掲げて言った。
「瓦礫層、厚さ3メートル。上からの杭打ちは危険だ」
彼は指を素早く動かし、ホログラムコードを空に展開した。
「コード展開:FRAG_CLEAR_07――分解処理、起動」
杭打ち予定地に薄く青い光が走り、埋もれていた瓦礫が静かに粒子化して消えていく。
「処理後チーム、残りの瓦礫は任せるっぺ!」
ゴウが吠える。右腕の重機義手を稼働させ、崩れた鉄骨をまとめて抱えて投げた。
キョウは無言で警戒杭を地面に打ち、周囲の崩落を防ぐ。ギョウは構造の歪みをリアルタイムで分析。
やがて、最初の杭を打ち込む“清浄な土地”が現れた。
🌱 シーン3:杭は、咲かせるもの
「杭一本目、構造点F-03。打ち込み準備、開始」
アセイが端末を操作し、空間に杭の座標を表示する。ホログラムの街が、透明な建築の胎児のように荒野に浮かび上がった。
「杭てのは、土台を支えるだけやない。ここに街が生まれるって“意思”を刻むもんや」
ケンチクが、一本の杭を手に取る。
「でも、ワイらは打たへん。杭は、“打つべき奴ら”がおる」
ゴウが無言で受け取った。キョウが静かに補助杭を装填する。ギョウが座標を微調整する。
そして、打たれた――始まりの杭が。
ゴンッ――……
杭が地を裂くと、地面から青白い碧素の粒子がゆっくりと立ち昇った。砂の中に、確かに“命の脈動”が芽吹いた。
💬 シーン4:すずかAIの囁き
すずかAIが静かに語りかける。
「杭から反応確認。地層の共鳴度:11%。わずかですが、都市としての“芽吹き”が始まりました」
アセイが目を見開いた。
「……こんな地層でも、本当に街が立つのか?」
「せや、立つんや。杭一本あれば、咲かせられる」ケンチクが、初めて“碧塔”を打ち立てた日のことを思い出すように笑った。
この杭が、都市の“命”になる。誰も信じなかった地に、最初の杭が咲いた。