第12話:不確かな地層
🌪️ シーン1:杭、沈まず
杭が打たれた土地の中央。
見事に咲いたはずの“始まりの杭”は、翌朝には微かに傾いていた。
「……共鳴率が落ちてるっぺ。地層が杭を支えられてねぇ」
ギョウが細身の体をかがめ、スキャナーを杭の根本に当てる。銀縁眼鏡越しに映る波形は、乱れていた。
「フラクタルの根が広がらない。碧素が……柔らかすぎる」
「つまり、“杭が足を取られとる”ってことやな」 ケンチクがゴーグルを額にずらし、地面を蹴るように軽く踏みしめた。
土は柔らかく、まるで“受け入れていない”ようだった。
「この土地、地中の碧素密度が浅くて均一すぎる。反応点がないと杭は支えられない」 アセイがフラクタル端末を構え、周囲にホログラムを展開する。
そこには“芯”のない都市構造。空気のように形を留めない設計基盤が浮かび上がった。
「すずか、地層の共鳴構造を表示」
「表示します。地下フラクタル構造:浮遊傾向あり。杭の共鳴率は平均11%。 このままでは、全体設計が崩落する可能性が高いと推定されます」
すずかAIの声は冷静だが、どこか慎重に響いていた。
🧠 シーン2:地中ネットの構想
アセイは黙って、設計端末に指を走らせた。
碧の線が空中に走り、杭の周囲を編み込むように立体構造を形作っていく。
「杭だけじゃ足りない。杭同士を“つなげる”ネットが要る」
「地中ネット?」 ケンチクが眉を上げた。
「そう。地中に“人工の碧素ネットワーク”を張ることで、杭の圧力を分散する。 杭が支えきれない地盤を、全体構造で持ち上げるんだ」
それは杭が“単なる柱”ではなく、“繋がる神経”になる発想。
「設計名:地中展開型フラクタルネット《脈織(みゃくおり)》」 アセイの声はどこか静かに、だが確信に満ちていた。
「すずか、ネット構造との整合性を評価してくれ」
「設計案《脈織》を受信。
都市構造との親和性:62%。杭再定義の必要性あり。
提案:杭の“機能”を『固定具』から『接続点』に変更」
「杭の……再定義か」 ケンチクが目を細めた。
🛠️ シーン3:杭の意味を編みなおす
夕方。杭が傾いた土地の上に、再設計された杭が届く。
形は同じだが、内部のコードが違う。 「これは、打ち込むための杭じゃない。“繋ぐ”ための杭や」 ケンチクが手に取ったその杭は、どこか軽やかだった。
処理後チームもそれを囲むように見守る。
「うちらが打つのは杭。でも、その杭が何者かは……時々、分からなくなるっぺ」 ゴウが重機義手を振りながらつぶやいた。
「でも、これなら……都市の“芯”になるかもしれない」 ギョウが杭の共鳴構造を確認し、キョウは無言で小さく頷いた。
すずかAIの声が、最後に静かに流れた。
「杭は、街を支えるだけのものではありません。
それは“繋がり”、あるいは“響き”の起点でもあるのです」
杭は刺すものから、繋ぐものへ。新たな都市の胎動が、地中から編み上がっていく。
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