あさ、わたしは起きてすぐに台所へ行った。おかあさんは、いつものようにお皿をあらっていたけれど、
背中が少しさびしそうに見えた。
「おかあさん、これあげる!」
わたしは両手でぎゅっと抱えていた“笑顔花”を差し出した。
「まぁ…ミナ、これ…どこで?」
おかあさんはおどろいて、しゃがんで花をのぞきこんだ。
花びらはやさしい光を放っていて、
台所の中がほんのりあたたかくなった。
「森で見つけたの。
おかあさん、これを見たら笑顔になるんだって」
おかあさんはしばらく花を見つめていたけれど、
やがて口もとがふわっとゆるんだ。
それは、何日ぶりかの本当の笑顔だった。
「ありがとう、ミナ…」
その声を聞いたとき、胸がじんわりして、
目の奥があつくなった。
その日の夕方、村の広場でおばあさんが話しているのが聞こえた。
「今年は10年ぶりの“星のおまつり”だよ。
一番きれいな飾りを作った人は、星の女王さまに会えるんだ」
──星の女王さま。
わたしはあの夜の声を思い出した。
「…会いたい」
心の中でつぶやいたその言葉が、
これからの道を決めたことに、そのときはまだ気づいていなかった。