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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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それから数日後、

美月は多忙なミキ先生の代役で、主婦層が中心の午前のクラスを担当していた。

このクラスは30代から50代までの主婦達が彫金を学んでいる。

その中に40代のおしゃべり好きの由紀子という生徒がいた。

このクラスの生徒の中ではお姉さん的存在だ。


その由紀子が、


「美月先生! ここ、ちょっといいですか?」


と質問してきた。

美月は由紀子の傍へ行き由紀子の作品を手に取って指で触ってみる。


「この辺り、もう少しヤスリで滑らかに角をとった方がいいかもしれませんね」


と、アドバイスをする。


「はーい、ありがとうございます」


由紀子はそう答えると作業を続けた。


教室では作業の合間にそれぞれが自由に休憩をとっていい事になっている。

しかしこのクラスは常連の生徒が多いので、いつも一斉に休憩を取っているようだ。

この日も由紀子の一声で、皆が一斉に休憩を取り始めた。


休憩に入った途端、由紀子が大声で言った。


「みんなこれ見た? 今日発売の週刊誌に出ていたんだけれど、私もう泣いちゃったわ」

「なになにー?」


生徒の一人が由紀子が手にしていた雑誌を読み始める。


「えーっ!『solid earth』」の沢田さんに恋の噂だってー! ショックー!」

「えーっ!見せて見せて!」


生徒達は大騒ぎになる。


「本当だ。美女とのツーショットを撮られてる!」

「沢田さんってここ最近浮いた噂がなかったよね」

「うん、独身主義だと思っていたからショック―! こういうの出て欲しくないー!」

「それにしても相手の美女スタイルいいよね。モデルか何か?」


すると週刊誌の記事を読んでいた生徒が言った。


「モデルみたいだね。年は三十歳」

「いかにも女を武器にした感じの色っぽい人だよねぇ」

「こういう派手な女性とは付き合って欲しくないー!」

「でもこれって本当に付き合っているのかなぁ?」


そんな会話が次々と聞こえて来た。


その時、教室の隅で道具の手入れをしていた美月は身体が固まっていた。

心臓がドキドキして手がかすかに震えている。


どうやってその日の仕事を終えたのか、美月はあまり覚えていなかった。

とにかく朝まではいつも通りの日常だったはずだ。

しかし今は普通に呼吸をするのもしんどい。


失恋した時のような胸の痛み? いや、それとは違う。

そうだ、この感情は元夫の浮気を知ってしまった時の感情に似ている。

今の美月には、あの頃の苦しみがリアルに蘇ってきていた。

あの当時の感情を思い出し、胃の辺りが締め付けられ吐き気がする。


(ちょっと何度か食事に誘ってもらったからって、勘違いしてバカな女)


美月は自分の事を蔑んだ。


その日美月は、片づけを終えるといつもより早めに職場を出た。

駅へ向かう途中本屋へ寄り、朝由紀子が持っていた週刊誌を手に取って見る。

そこには、髪の長いスレンダーな美女と海斗が道路で見つめ合っている写真が掲載されていた。

とてもお似合いの二人だった。


雑誌を読み終えた美月は、なぜだか視界がぼやけてきた。

そして急に自分だけがこの世界から取り残されてしまったような気持ちになる。

美月は何かから逃れるように本屋を後にした。


潤んだ瞳のおまま足早に駅へ向かうと、すれ違う人にぶつかってしまう。


「ごめんなさい」


美月は慌てて会釈をし地下鉄の階段を駆け下りると、

ホームに入ってきた電車に飛び乗った。

そして窓から見える殺風景な景色をひたすらじっと見つめていた。



その日の朝、海斗の事務所は大騒ぎだった。

久々に週刊誌に海斗がスクープされたからだ。

事務所にいた海斗は、マネージャーの高村に呼ばれた。


「おい、この記事は本当か?」


と高村は週刊誌を海斗に渡した。

海斗はその記事を一通り読むと、


「違うよ。その写真は小野に呼ばれて食事に行った時のものだ。女性は二人来ていてその女性はそのうちの一人!」


と不機嫌に答える。


「って事は、他にあと二人いたんだな」


と高村が確認する意味でそう聞くと海斗は頷いた。


「だよなぁ。こういうのお前の趣味じゃないから変だなーとは思っていたけれどやっぱりそうか」


高村は安心したように言った。

そして続ける。


「びっくりしたなぁ! 海斗くんの15年ぶりのロマンスかと思ったよ…」


高村は海斗をからかう。

15年ぶりというのは、15年前に有名女優との密会が週刊誌ネタになったことがあったからだ。


「勘弁してよー。ネタがないからってこんなウソ記事書かないで欲しいわ」

「まあ、いろんな意味で宣伝になっていいんじゃないか? それだけ有名って事なんだし」


高村は苦笑いを浮かべる。


「冗談じゃないよ。頼むからちゃんと否定の文章を事務所から出しておいてくれよ」


海斗はそう言い残すと、慌てた様子で部屋を出て行った。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

2

ユーザー

売れっ子有名人は群がってくる女性も多いし、いろいろと大変ですね😓💦 事務所も 海斗さんご本人も キッパリと否定して、美月さんを早く安心させてあげてね....🙏

ユーザー

そうそう、ちゃんと事務所で否定してもらうのと、海斗さんは直接美月ちゃんに説明して否定してね😠 じゃないと美月ちゃんがとても傷ついてるからね!! 有名人なんだからパパラッチには要注意⚠️⚠️⚠️

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