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「なんですって!娘は、番付辞退?!」
女将が、身を乗り出して来る勢いで叫んだ。
番付を利用して、玉の輿狙いとは、勝代らしいと女将は苛つきながら言っている。
「まあ、そんなこんなで、高井子爵に見初められたという訳でな。と、なると、女将よ。またまた、子爵の金遣いが荒くなるだろう?」
親分が、怒る女将へ告げ口のごとく、そっと言う。
「親分さん、それで、亀松というのがねぇ、今一つわからないんですけど、金原の社長?お座敷では、どうゆう話になっているので?」
女将は、やはり、親分に適当な事を聞かされているようで、まるっきり何が起こっているのか、分からないと金原へ問うてきた。
「……ああ、それは」
言い含み、金原は親分を見た。どこまで、女将が知っているのか確かめたかったが、すっと、そっぽを向いて、なにやら誤魔化している。
「つまり、その……」
「あっ、面倒見る、受けるがどうのってやつ、行うみたいですよ?」
口ごもる金原に変わってハリソンが答えた。
「ええ!!それは、身請するってことですか?!親分に金原の社長!!」
「ああ!!そう、そうですよ!女将!!亀松を身請すると、ハッキリ言い切りましたね」
女将が、亀松の事を知らないということは、破談にする企みまで親分は喋っていないと言うことだ。
内心安堵しつつ、金原は、興奮ぎみの女将を煽るごとく、噂話でも語るように淡々と言った。
「なんですって!!嫁をもらう、だけでも、こちらは、結婚祝いだなんだと、たかられるのに、挙げ句、身請?!」
「ああ、そういえば、結納の日に、亀松を紹介すると、言ってましたよ。女将」
金原に教えられた女将は、目を白黒させ、ふうふう、息を荒げた。
「女将、どうか落ち着いてください。高井子爵のことだ、酒の席の戯れということもあり得る」
「いいえ!」
女将はきっぱり言い切って、一呼吸置くと、皆へ、もっと近くに来るよう手招いた。
顔を寄せ合った皆は、女将から、得たいの知れない悪どさが発っせられていることに、ゾッとする。
「高井子爵には、何度も、やられっはなしなんですよ。これで、何度目の結婚です?!しかも、勝代の娘?!ここは、皆さんのお力で、なんとかなりませんでしょうかねぇ?」
「女将、なんとかとは?」
親分が、空々しく首を捻る。
「ええ、是非とも、亀松を身請させて、結納の日に御披露目させるんですよ!なんでしたら、祝い事ですからね、こちらも、太鼓持ちやら、芸者衆やら、声かけして送り込みますよ」
「おや、楽しそうな集まりで!」
ハリソンが、真顔の女将へ、口を挟む。
「ハリソン!お前は、黙ってろ!しかし、女将、それは……」
金原の戸惑いに、女将は、ニヤリと笑うとすまして言った。
「皆で、亀松を祝ってやるんですよ。どうせ、勝代が、亀松をこけにするでしょうから、こちらも、黙っちゃおれません」
「おお、そりゃまあ、いいがよ。それだと、高井子爵は、両手に花じゃあーねぇのかい?」
「親分さん?そんな馬鹿げた事、誰が許すとお思いで?勝代だって、黙っちゃいないでしょうし、まあ、ひともめも、ふたもめも、ある結納になりますでしょ?」
つまりは、その場で、破談。
女将はそう言いたいらしい。
「そうと決まれば、ちょいと、水揚げの祝いに、子爵の所へ顔を出してきましょうかねぇ」
女将は、さっと立ち上がり、ああ、お銚子運ばせますからと、捨て台詞を残して、部屋を出て行った。
残された男達は、一斉に吹き出した。
「やれやれ、考える事は、皆、同じですか……」
「そうさなぁ、鬼キヨよ……」
「親分。これで、こちらの仕業とは、思われない……と」
金原は込み上げて来る笑いをこらえ、親分に礼を言った。
偶然とはいえ、親分が女将を巻き込んでくれた為に、思わぬ方向で事を制したのだから。