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「さて、話は思わぬ援軍が現れて、上手くいきそうです、親分。あとは、結納の日時を調べるだけですか……」
「そこは、鬼キヨよ、女将が、仕入れて来るだろうさ。と、いうよりも、お前さん、仮にも縁続きになるだろう?なら、招待されるんじゃねえのかい?」
「まさか、私は、柳原の宿敵みたいなものですよ、それに……あれだって、同じ娘でありながら、疎まれ続けて来たのですから……」
そうか、やっぱりなぁ、と、渋い顔をしながら、親分は、小さく唸った。
「勝代か。あいつは、なかなか、手強いなぁ……」
ええ、まあ、と、金原も返事にならない言葉を返した。
「まあ、元は、横浜で、異人に囲われていたって話も聞くが、流れに流れて、赤坂にたどり着いたらしいんだ。で、すぐに、引き抜かれて、新橋へ鞍替えしやがった。何せ、当時は、赤坂は、ぱっとしなかったからな。新橋の方が格上で、花代も違う。身入りの良い方へさっさと移っちまったのさ。それもだ、いきなりは不味かろうと、わざわざ、赤坂より格下の深川で、腰かけ程度に居座って、ほとぼりさまして、本命の新橋へ移りやがった。新橋側の考えがあったようではあるがよぉ、それが、余計に、摩擦を起こして、揉めに揉めてなぁ。赤坂、深川じゃあ、勝代は目の敵よ」
女将が妙に意地を張る所に、金原も、違和感を感じていたが、親分の愚痴りで、勝代が嫌われる事情がうっすら分かった。
転々としていたという噂は金原も、ちらりと耳にしたことがあるが、なぜ、勝代の過去を皆が知っているのか不思議だったのだ。
それだけ、身勝手に動いていては、恨みもそうとう買うだろう。
「それで、親分さん、勝代はそもそもどうして、そんな、嫌われるようなことを?」
金原が言う前に、何故か、ハリソンが真顔で親分へ問うていた。
「異人に囲われていたなら、その横浜で、暮らせたはずじゃないですか?」
「詳しい事情はしらんがねぇ、いわゆる、一夜妻的にな、かりそめ、だったらしいぜ。その異国人が、国へ帰っちまったようで、勝代は、捨てられたも同然ってやつさ」
「……小春が、そんな事になっていたなんて……」
「おや?ハリソンさんよ、小春って、良くご存じで。確かに、初めは、そんな名前で出てたなぁ」
うんうんと、昔を懐かしみつつ、頷く親分に脇目もふれず、ハリソンは、硬い表情で立ち上がると、さっと部屋を出た。酒を運んで来た女中とかち合わしたが、言葉を交わすこともなく、ハリソンは、逃げるように去って行った。
戸惑う女中へ、親分が、手招きするが、何故か、金原まで、暗い表情で、立ち上がり、失礼しますよと、挨拶も早々にこれまた、部屋を出て行った。
「ご苦労、ご苦労、盆は、受けとるぜ」
呆然と立ち尽くす女中から、酒を受け取った、親分は、
「なあ、なんで、小春と聞いたとたんに、二人共なんだ?」
女中へ、愚痴るが、事情などさっぱりな女中は、さあ、と、首を捻るだけだった。
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