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午後は、荷物の出入りが激しく、美花は、リーチフォークに乗って荷物を移動させたり、ストレッチラップを荷物に巻く作業を淡々と熟していた。
結局、この日は一時間ほど残業となり、彼女が帰宅したのは十八時半。
ヘロヘロになりながらも、美花は店の入り口から入っていく。
「ただいまぁ…………マジでお腹空いたぁ……」
「美花ちゃん、おかえり! 相変わらずお母さんに似て可愛いねぇ」
「いらっしゃいませ! おじさん、今の時代、『可愛いねぇ』なんて言うと、セクハラ扱いされるかもしれないですよぉ?」
「おっと! それはマズいなぁ」
常連のおじさんは、ハハハッと豪快に笑い、ビールを飲んでいる。
店内は、思いのほか混雑していて、ほぼ満席状態。
常連さんや顔見知りの客も、何組か来店していて食事をしている。
「お帰り美花。ったく、あんたは、まぁ〜た店から入ってくるんだからっ!」
カウンターの中で忙しなく動いている母の雪は、ピシャリと言いつつ、苦笑している。
美花がそのまま、カウンターの隅に眼差しを向けると、あの彼が来店していた。
「あっ…………おにーさん、いらっしゃいませっ。こんばんは」
「…………ああ……どうも」
挨拶を交わした後、生姜焼き定食を黙々と食事をしている彼は、食べる所作が上品だな、と美花は思う。
「美花! そんな所でボーッと突っ立ってるんだったら、店の手伝いをしてちょうだい」
「はぁ〜い」
母の声にハッとした美花は、スイングドアを通り抜けると、動きやすい服に着替えて、エプロンを着け、髪を一つに束ねた。
店内に向かうと、出来上がった料理を注文した客のテーブルに運び、来店した客には注文を取る。
「…………すみません」
美花は声のする方へ顔を向けると、あの彼が控えめに手を挙げている。
「お待たせしました」
彼女が笑顔で彼に向き合うと、涼しげな瞳が、僅かに見開いたように見えた。