テラーノベル
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「生中を……ひとつ」
「かしこまりましたっ」
美花は、カウンターに入り、中ジョッキを手にすると、ビールサーバのレバーを押してビールを半分以上注ぎ、レバーを引いて泡を乗せる。
ビール七割、泡が三割、生ビールが美味しいとされる黄金比率らしい。
「お待たせしましたっ! 生ビールです」
美花は、カウンターの隅に腰を下ろしている彼の前に差し出した。
「…………偉いな」
不意に、彼がポツリと美花に向けて言葉を零す。
「…………え?」
「いや、仕事もして、家に帰ってきてからも、お母さんの手伝いをして、偉いなって…………思っただけだ」
「あっ……ありがとうございますっ」
彼女は彼に、ペコリと頭を下げると、彼は、静かにビールを口に含んだ。
「お兄さん、うちの娘、ホント男っ気がないんですよ。家に帰ってくると、パソコンばっかりいじって。仕事が休みの時もパソコンしか触らない、オタク女子なんですよ。お兄さん、良かったら、いつか娘とデートしてやってくれません?」
「ちょっ……! お客さんにいきなりそんな事言ったら、失礼だよぉっ!」
母の雪が、冗談とも本気とも取れる事を、あの彼に微笑みながら口走ると、美花はあたふたしながら彼から離れる。
「っていうか、お店も落ち着いてきたし、お風呂も入りたいから抜けていい?」
「いいよ。美花、手伝いありがとね」
「おにーさん……どっ……どうぞ、ごゆっくり」
恐るおそる、彼女が彼を見やると、唇を緩ませ、フッと小さく笑っている。
美花は、困惑しつつ彼に頭を下げると、店の奥に向かい、パジャマを持って浴室に向かった。
それにしても、まさか、有名楽器メーカーからオファーのメールが届くなんて……。
スマートフォン向けの楽曲制作アプリは、彼女が知っている限り、二つしかない。
美花も試しに、両方ともダウンロードして使ってみたけど、パソコンでの制作に慣れているせいか、使い心地はイマイチで、すぐに削除してしまった。
(ハヤマさんのアプリは、どんな感じかなぁ?)
入浴を済ませた美花は、パソコンを起動させると、ワクワクしながらメールソフトを立ち上げた。
Hanaとして使っているメールアドレスは、ウェブメールなので、スマートフォンでも、パソコンからでも送受信できる。
彼女は、もう一度、昼休みに読んだメールを読み返し、返信ボタンをクリックした。
白紙のメール入力画面を凝視しながら、返信の文章を考える。
美花は、キーボードに両手を乗せると、カタカタと文字を入力し始めた。
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