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緑爽やかな時期が過ぎ去り、いつしか夏がすぐそこまで来ていると感じる季節へと移り変わっていた。
コンクールも出場する事はできなかったが、侑のレッスンは相変わらず続けている。
暑さにまだ慣れていない事もあるのか、ここの所、瑠衣は食欲があまりなく、身体が重怠く感じている。
日中に時々睡魔が襲ってくる事もある。
(風邪でも引いたかな……)
この日も侑がオフで、自宅の防音室でレッスンをしていたが、瑠衣の顔色が悪い事に気付いた彼が彼女の顔を覗き込んだ。
「瑠衣。体調が悪いのか? 顔色が悪いぞ?」
「ここの所の暑さのせいか、身体が怠いし眠気が凄くて……」
「ならば、今日のレッスンはここまでにしよう。ひとまず身体を休めろ。それから念のため体温を測っておけ」
二人はリビングへ戻ると、薬箱から体温計を取り出した侑がソファーにもたれて腰を下ろした瑠衣に手渡す。
うつらうつらしながら体温計を差し込む彼女の横に座った侑が、華奢な肩を抱き寄せた。
一分もしないうちに測定終了の電子音が響き、体温を確認すると、三十六度八分とデジタル表示されている。
「…………微熱か。少し様子を見た方がいいかもしれんな」
侑は突然瑠衣を抱きかかえて立ち上がると、彼女は子ども扱いされたと思ったのか頬をプクっと膨らました。
「先生、自分で歩けるし……!」
「…………いいから大人しくしてろ」
「やだ、恥ずかしいから!」
「…………今更だろ」
そのままリビング内の階段を上り、寝室のベッドに瑠衣を寝かせると、彼も彼女の隣に横になった。
「…………夏に近付いて暑くなってきたせいで、身体がまだ慣れてないのかもしれんな」
細い身体を抱き締めると、普段よりも熱が籠っているように侑は感じた。
瑠衣は彼の胸に顔を埋めながら瞼を閉じる。
程なくして穏やかな寝息が聞こえ始め、瑠衣は眠りに堕ちたようだ。
「…………寝てしまったか」
彼は彼女の髪を撫でた後、額に唇を寄せると、やはりいつもよりも熱い。
愛おしい女の寝顔を少しの間見つめると、侑はフッと笑みを零しながら瑠衣を更に抱き寄せて微睡んだ。