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18 - 【第二章】第9話 出逢いの記憶(日向司・談)

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2023年09月27日

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「——失礼します、デザートをお持ちしてもよろしいですか?」

ウェイターの男性が、料理を食べ終わったタイミングで話し掛けてきた。

「え⁈あ…… あぁぁぁ…… 」

挙動不審なうえ、唯が小声ながらも変な音を出す。

「お願いします」

唯に代わり俺が返事をすると彼女は驚く程の困り顔になった。同僚だからが、クスッとウェイターの微かな笑い声が聞こえる。

「かしこまりました、少々お待ちください。こちら、おさげします」

手際よく、お皿を片付けてくれる。

「どうした?もうお腹いっぱいだったのか?」

デザートは断るべきだったのだろうかと心配になってきた。いらないなら、今すぐ断れば間に合うかもしれない。

「え、あ…… いえ、そんなんじゃないですよ?うん」

手を激しく振り否定する顔は、林檎みたいに真っ赤だった。



「おまたせいたしました。こちら、デザートになります」

コトッと微かな音をたて、俺の目の前に置かれる小さなお皿。

それを見た瞬間、硬直してしまった。


(——また…… やられた…… )


口から出そうになった言葉をぐっと呑み込む。ため息がでそうになったがそれも堪えた。そんな事をしていい状況じゃない。

その場から笑顔で離れるウェイター。だが何も言えず、硬直状態を解く事が出来ない。

「あ、あの…… 」

唯が先に声を出したが、震えている。対面からテーブル越しに俺の手を握り、唯がジッと顔を見詰めてきた。

「これを、受け取ってもらえませんか?」

今まで一度も見た事の無い、真剣な顔で言われた。


これとは、どう考えても…… お皿に花と一緒にのせられた“指輪”の事だろう。


まさか、こっちまで先を越されるとは思ってもいなかった。

「私と、結婚してもらえませんか?」


(やっぱりそうきたか)


「そういうのは、まだ早くないか?」

なんとか口を開くも、つい否定的な発言になる。

「この間付き合うってなったばかりで、それから何回も会っていなかっただろ?」

諭す様な、宥める様な声が出る。

「あ…… 会えない間に私、色々考えたんです。すごく会いたくて、私…… すごく司さんが好きだなって思って。どうしたらもっと一緒に居られるかなって考えちゃって。それで、もうこれしか思いつかなくって…… 」

唯の言葉が、上手くまとまっていない。俺の反応に動転しているのだろう。

告白は先を越された。出来れば今回こそは、俺からしたかったのに。


(俺達は今日やっと手を繋いだっていう亀並みの進み具合で、キスすらもしていない。それなのに結婚とは、流石にやり過ぎじゃないか?他にも色々…… 体の相性とかも、あるし)


俺から伝えておかないといけない、大事な話だって先送りのままだ。

「まだ早い。キスもしてないのにいきなり結婚とかは…… 」

下手な事を言って傷つけたりはしたくない。でも、どう返事をしていいのか頭に浮かばなかった。


「じゃあっ——」


唯が席を立ち、前屈みになって俺のネクタイをグッと掴んだ。急に引っ張られ、何が起きたのかわからずされるがままになっていると、彼女勢いよく俺の口に唇を重ねてきた。

数秒そのままになり、ゆっくりと離れる。

子供のマネ事みたいな軽いキスを、勢いだけで公衆の面前で唯はかましてきやがった。

「これで、いいですか?」

初めてキスをしたというのに、悲しそうな表情をしている。恥ずかしかったのか顔は真っ赤だ。


——完敗だった。


(見た目とは裏腹に、君の方がずっと一枚上手だな)


「焦る必要なんてないのに…… 」

くすくすと、笑い声が自分から溢れる。

「俺からされるのを待つとかは出来なかったのか?」

顔がつい緩んでしまう。

「…… か、考えてませんでした。私の方が絶対司さんを好きだなって…… 思ってるから」

ちょっと泣き出しそうな顔すらも可愛い。


だけどな、先に惚れたのは絶対俺だ。


今度は俺が少し腰を浮かし、テーブル越しの唯の頬に軽くキスをした。

「よろこんでお受けします」

そう彼女の耳元で囁き、ゆっくり離れる。唯がしばらく硬直して動かなかったが、少づつ彼女の目から涙が落ち始めた。

ポロ…… ポロポロ…… と、綺麗な涙が次々溢れる。仕舞いには、本気で泣き出した。

「泣く事じゃないだろ?」

出せる限りの優しい声で言いながら、唯にハンカチを差し出す。席に座り、受け取った俺のハンカチで顔を押えながらコクコクと唯が頷いた。

「安心したら…… なんか…… すごく嬉しくて…… 」

ぐすぐすと泣き続ける唯の頭を、そっと撫でる。

「指輪、はめてもらえるか?俺の為に選んでくれたんだろう?」

ゆっくりハンカチを顔から下げ、それをテーブルに置く。真っ赤で、泣き顔で…… 色っぽさの欠片もない顔だ。でもそれがすごく可愛いいと思う。


(こんな俺がもらって、本当にいいんだろうか?)


ちょっと思うも、どうせ今更手放す事も出来ない。したくない。

時間をかければいいってものでもないし、俺は四年前から唯を目で追っていたんだから、これでいいのかもしれないな。


ぶるぶると震える手で俺の左手を手にとり、小皿の指輪を唯が手にする。ゆっくりとそれを薬指に彼女がはめてくれた。だけど心持ち大きい気がする。サイズがわからないんだ、当然か。

完全に指にはまった瞬間、唯に達成感で満たされたような色が浮かぶ。疑いの余地もなく、嬉しい事が伝わってきた。


パチッ…… パチッパチッパチッ…… 。


突然、拍手のような音が隣の席から聞こえた。

「え?」

不思議に思い横を見ると、面識の無い、老夫婦のような二人が嬉しそうにこちらを見ていた。奥さんらしき人はハンカチで目頭まで押えている。


(——み、見られていたのか⁈)


急に立ち上がって、いきなりキスまでしてたんだ。何事かと、途中から気になって見ていたとしても、まぁしょうがないのかもしれない。他の席の人達も、店員までもがニコニコと笑いながら拍手を始めた。俺達の周囲に座っていた人が、皆が。

少し離れた席の人達は、その様子を不思議そうに見てきている。

「あ、ありがとうございます!」

唯が嬉しそうに周囲へ向けて頭を下げたので、俺も一緒にそうした。


(恥ずかしいからさっさと止めてくれ!)


内心そう思うも、皆好意でやってくれているのがわかるので流石に何も言えない。

「こちら当店からのサービスです」

さっき、唯が『涼子さん』と呼んでいた女性が俺達に花束を渡してくれた。

「ありがとぉ!」

涼子さんとやらに唯が抱きつく。俺も彼女へと一礼し、感謝を伝えた。


——周囲の人達が、それぞれまた自分達の会話を楽しみだした頃。

「…… もう店から出ないか?」

懇願するように、でも小声で言う。すると、コクコクと恥ずかしそうに唯も頷いてくれた。さっきの騒ぎは彼女も予想外だったはずだ、きっと唯も相当恥ずかしかっただろう。

俺が置いてあった伝表に手を伸ばすと「これは私のですよ」と言い、取られてしまった。

席を立ち、周囲にペコペコと頭を下げながら出口に向かおうとする。だが、老夫婦のような二人には声を掛けられ、別れを惜しまれてしまった。


会計に行くと、「俺達からのおごりですよ、おめでとう」と言われ、彼女は悪いですと断るも「お祝いだから」と結局タダにしてもらった。何度も何度も頭を下げ、その場を後に。



エレベーターの中に二人きり。俺は乗るなり、すぐに唯を抱き締めてしまった。きつくて、少し痛かったかもしれない。でも唯は俺の腕に触れ、いとおしそうに体を預けてくれた。


ドクン…… ドクン…… ドクン——


自分の心臓がやけに煩い。何か衝動的なものが、体の奥からこみ上げてくる感じが自分でもわかる。

唯の顔をクッと上にあげ、唇を重ねる。さっきのような子供のお遊びではなく、大人のキスがしたい。そう想う気持ちが抑えられなかった。

真上を向く唯の口は自然に開き、その中へ俺は舌を入れて絡めるように互いを求めた。

「んん…… んくっ…… ぁぁん」

洩れる声が可愛くてしょうがない。もっとその声が聞きたい。その一心で、彼女の股にグッと俺の脚を入れて根元を擦る。

「んんんっ!」

俺の腕をぎゅっと唯が強く掴んだ時だった——


ポンッ


エレベーターが目的の階に着いたぞと音を鳴らす。その音を機に、俺達は慌てて彼女から離れた。扉が開いた瞬間、待っていた団体客が乗ろうとする中を、外へ外へとかき分ける。

「降ります、すみません」

唯の手を引き、なんとか降りる事が出来た。振り返り、彼女の方を見ると、真っ赤な顔のままボーッとしている。


(まずい…… 今のは危なかった…… 。あのまま理性が飛んでいたら、マズイ事になっていた)


予想外の展開ではあったものの、やっとここまできたんだ。唯を失いかねない所だった事を深く後悔した。


(さっきみたいな、勢いで手を出してはダメだ。彼女とはちゃんと話し合わないと)


「家まで送って行くよ。帰ろう?未来の奥さん」

「…… はい」


達成感に満ちた、にこやかな笑顔を向けてくれる。まずは、この笑顔を壊さぬよう…… 大事にするんだ。

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