「あー? 今度は遅刻しないできて……ッ!!?」
「はいっ! 今度はちゃんと間に合いました!」
「お主が、アオイが言ってた“先輩”なのじゃ?」
今回はルカをちゃんと呼んで、余裕をもって現場に到着。
ちなみに前回の大遅刻は――先生が会議の存在をすっかり忘れてて、俺が連絡を聞いたのが18時5分だったという事故。
……どうあがいてもアウトだった。うん、ほんと無理ゲーだった。
でもそれはともかく。
「……あの、先輩?」
「のう? アオイよ、こやつ……何故に口を開けっぱなしでワシらを交互に見とるのじゃ?」
「うーん……前もなんかこんな反応だったような……」
カチンコチンに固まってる先輩。
汗ひとつ垂らさず、まるでバグったゲームキャラのようにルカと俺を交互に凝視していた。
「アーーーー!!! うるせぇッ!! てめーがアオイの友人か!」
ようやく自我を取り戻した先輩が、ガッと顔を上げてルカに詰め寄る!
「いかにも、そうなのじゃ」
堂々としたルカの返答。さすが。
※なおこのとき、アオイとルカは知らなかったが――
先輩はふたりの豊満なおっぱいに圧倒され、完全に脳がおっぱいに挟まれ停止していた。
「……まぁ、いい。お前も見てろ」
「むっ」
“お前”と呼ばれたルカは、ぷくっと頬をふくらませ、わざわざ先輩の正面に回り込む。
そして――なぜか自然に胸を突き出し、腕を組み、堂々と仁王立ち。
「ワシの名前は“ルカ”じゃ!『お前』呼ばわりするでないのじゃッ!」
ばばんっ!という音がしそうな勢いで、ルカは目を細めて睨みつける。
ついでに、おっぱいがめっちゃ張られてて強調されてる。強調されすぎてる。
いやいやいやいや!ルカ!? 今の相手、ヤンキーなんだよ!? ケンカ売ってるの!? こっわ!
ほら見てよ、先輩の顔……って、あれ?
なんか、顔赤くなってない? そしてそっぽ向いてる……。
「うるせぇ! わーたよ! ルカだな!? ルカにアオイ! ついてこい!」
「わかればよいのじゃ」
ふふんっ、とドヤ顔で先輩の前を退いたルカ。
……いや、名前ってそんなに重要? まぁ、もしかして“お母さんに付けてもらった大切な名前”とか?
うん、きっとそういう感動エピソードが……あるのかもしれない。
取りあえず、先輩のあとをついて歩く俺たち。
時間にして10分ほど。だけど……無言。
静かに歩くって、めちゃくちゃ気まずい……!
「そ、それで、先輩……どこに向かってるんですか?」
「あー?」
「ひっ……」
顔こっわぁあ!!
え、なんでそんなに険しい顔!? 心臓止まるかと思ったわ!
……俺、学校時代はオタク友達としか話してなかったからヤンキーってほんと苦手なんだよね。
まぁ、その頃は女子の方が何倍も苦手だったけど。
「……俺の《なんでも箱》に来てたんだよ、コレが」
先輩はそう言って、魔皮紙を一枚取り出して渡してくる。
どうやら《なんでも箱》に入っていた依頼書らしい。
えーっと……なになに?
「放課後、体育館裏で待つ――」
……だけ?
裏面を見ても差出人の名前すら書いてない。
筆跡は……なんとなく女子っぽい?
ちなみに俺の字は汚い。聞いてないか。
「あー……まぁ、果たし状だ」
「へ?」
なにそれ、昭和か!?
「だから、今からそいつをぶっ潰しに行く」
出たよ!ヤンキー定番の脳筋思考!!
「で、でも! ほら、そういうのって告白とかじゃないんですか? 体育館裏って、定番だとそういう――」
「……あー?」
「ひっ……!」
バチィッと刺すようなヤンキー顔を向けられて、即座にルカの後ろに回避!
「な、なんでワシの後ろに隠れるのじゃ……?」
いやだって、無理!
無理無理無理!ヤンキー顔!刺激強すぎ!
オタクの俺には毒なんですってば!
……と、そんな俺の恐怖など無視して、先輩はまた前を向いてズンズン歩きながらポツリと答えた。
「そうだとしても……俺より強ぇ女じゃねーとダメだ」
先輩は前を向いたまま、ボソッと呟く。
「俺たちは冒険者になる。異性がいるパーティーは崩壊するんだよ」
「ほえぇ……?」
「のじゃ?」
二人してぽかんと口を開ける中、先輩は続けた。
「現状、異性混合パーティーってのは、ほとんどねぇ。理由は簡単だ――女絡みのトラブルで潰れるからだ」
「……」
「たとえばだ。誰かが誰かに恋して、それで仲違い。
あるいは、男を取り合って女同士で刺し合い。
そもそも恋愛感情が発端でどさくさに紛れて“事故”装って殺したり……実際にあった話だぜ」
……いや、怖っ!?
冒険者の世界、思った以上にリアル修羅場じゃん!?
でも、たしかに命がけの現場なら……吊り橋効果とか、そういう感情もブーストされやすいのかも。
「だから俺は――俺より強ぇ女としか組まねぇ」
先輩は歩きながら、まるで格言のように言い放った。
「もしそんな女がいたら、俺はそいつの言いなりになってやるよ」
「ほーう? 潔いのじゃのう?」
「負けたら、それが相手が女だろうと――それが全てだ。
……今の俺のパーティーの残り三人も、ボコして手に入れた」
「……」
……ボコして手に入れた?
いや、それ、どこのドラク〇だよ!!
喧嘩して勝ったら仲間になるって、何その昭和漫画的な謎の友情展開!?
現実じゃそんなのないからね!? 少なくとも俺は知らないからね!?
ヤンキーってほんと、別の生き物だよもう……!!
……てかさ、よく考えたら、俺の周りのパーティーって男女混合しかいなくない?
え、異性いると揉めるとか崩壊するとか聞いたんだけど!? なんでみんな普通に仲良ししてんの!?
……まぁ、俺たち異世界から来てるし? 常識とかズレてんのかもね!
……とか言ってる俺、気付いたらパーティー組んでないんだけど?
――いや、ひとりだけソロ活動なんだけど!?
なんで!? 異世界主人公なのに!? 俺だけ自由行動ってなに!? ぼっち冒険者すぎるでしょ!?
「ほーう? ボコして仲間に、じゃと……」
なんかルカがその言葉を聞いた瞬間、「その手があったか!」みたいな顔をしてた。
――絶対ちがうよって、あとで100回くらい言わないと……!
「あー、それより着いたぞ。そこら辺で隠れとけ」
先輩に言われて俺とルカは体育館裏の木陰に身をひそめる。
そろーりと覗くと、そこには――
白い特攻服を着た、俺と同じ金髪の――
スケバンが、地べたにどっかと座ってた。
……ちょ、え、何これ?
なんか突然ジャンルが変わった気がするんだけど!?
異世界ファンタジーじゃなかった!? 今から抗争始まる!? ねぇ!?
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モンスターと呼ばれる存在について
本書はミクラル王国の教育機関にて使用されているため、本稿では脅威となる存在を一貫して「モンスター」と記載しています。
ただし、この呼称は地域によって異なり、
・グリード王国では「魔物」
・アバレー王国では「アヤカシ」
と呼ばれています。
それぞれが独立した文化・言語体系を持っていた時代の名残とされており、意味する存在は同じです。
今日では、ギルドや学術機関を通じて呼称の統一が進んでいますが、それでもなお各地の風習として残っているため、注意が必要です。