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深夜二時
俺の部屋は、不自然なほどの静寂に包まれていた。
いや、静寂というよりは「清浄」だ。
『徳ポリス』で稼いだポイントを使い
最新の空気清浄機、最高級の安眠ベッド
そして何不自由ない生活環境を整えた。
スマホの画面が青白く光る。
『大型アップデート完了:断罪の灯実装』
『これからの徳は、守るものではなく、勝ち取るものです』
画面に表示された新しいマップには、街中の「不徳者」がリアルタイムの赤点で表示されていた。
これまではARカメラで直接捉える必要があったが、これからは獲物を「索敵」できる。
「……なんだ、この数は」
深夜の繁華街。赤点が密集しているエリアがある。
俺は吸い寄せられるように、上着を羽織って外へ出た。
街は、変わっていた。
すれ違う人々のほとんどが、スマホを顔の前に掲げている。
その瞳には、かつてのような人間味はなく、ただスコアを追う飢えた獣のような光が宿っていた。
「おい、お前! 今、歩きタバコしようとしたろ!」
「してねえよ! 触んな!」
路地裏では、二人の男がつかみ合いの喧嘩をしていた。
周囲の人々はそれを止めようともせず、一斉にスマホを向けている。
「おい見ろよ、あいつの不徳スコア、一気に300も跳ね上がったぞ」
「誰が先に『浄化』ボタン押すか競争だな」
一人がボタンをタップした瞬間
喧嘩をしていた男のスマホから、悲鳴のようなエラー音が鳴り響いた。
【警告:不徳の蓄積。強制デビットが発生します】
「あ、あああ……俺の、俺のポイントが……!」
男は膝をつき、絶望に顔をゆがめた。
その直後、彼の街灯がふっと消え
代わりに彼を糾弾した男の頭上に、まばゆいばかりの黄金の光が降り注いだ。
「ははは!昇進確定だ! ありがとうよ、クズが!」
これが「断罪の灯」。
他人の悪を暴き、公衆の面前で「悪人」と定義することで
その人間が一生懸命貯めてきた幸運のストックを、根こそぎ強奪できるシステム。
「……効率が良すぎる」
俺の喉が鳴った。
ゴミ拾いやお辞儀なんて、もう馬鹿らしくてやってられない。
誰かの「悪」を見つけ出し、それを叩き潰す。
それが一番手っ取り早く「聖人」になれる方法なんだ。
そのとき
俺のマップ上にひときわ大きく、血のような赤色をした光が点滅した。
『近隣に「重罪者」を検知。浄化報酬:徳+5,000』
「5000……!?」
一気にトップランカーに躍り出れる数字だ。
俺は、理性を失った笑顔で、その赤点が指し示す公園へと走り出した。
背後で、誰かが「不徳者だ!」と叫び、誰かを追い回す靴音が響いている。
もう、この街に「善意」なんて残っていない。
あるのは、正義という名の、最も残酷な娯楽だけだ。
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