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公園のベンチに座り、スマホをいじっている男がいた。
マップが示す「重罪者」の赤点は、間違いなくこいつだ。
俺は物陰からARカメラを向ける。
【ターゲット:不徳スコア -5,000 経歴詐称、SNSでの誹謗中傷、隠匿された悪意】
「……ビンゴだ」
男は一見、どこにでもいる大人しそうな青年だ。
だが『徳ポリス』のレンズを通せば、その頭上にはどす黒い霧のようなエフェクトが立ち込めている。
このアプリのAIは、ネット上の書き込みから過去の素行まで全てをスキャンし
隠れた「悪」を暴き出す。
俺が「断罪」のボタンに指をかけようとした、その時だ。
「見つけたぞ! 重罪者だ!」
背後から数人の男女が走り寄ってきた。
全員がスマホを武器のように突き出している。
「おい!先に俺が見つけたんだ、邪魔するなよ!」
一人の男が俺を突き飛ばした。
その瞳は血走り、口角は不自然に吊り上がっている。
「いや、私の方が早かったわ! 浄化ボタン、もう押したわよ!」
「ふざけんな! 俺のポイントだぞ!」
重罪者として晒し者にされた青年は、顔を真っ青にして立ち上がった。
「な、なんだよお前ら……。俺が何をしたって言うんだ!」
「うるせえ! アプリが『悪』だって言ってんだよ!」
「マイナスの分際で口を叩くな!」
集団が青年に詰め寄る。
それはもはや「正義」の執行ではなかった。
ただの「狩り」だ。
高ポイントという餌に群がる、飢えたハイエナたちの狂宴。
青年が逃げ出そうとした瞬間、一人の女がその足を引っ掛けた。
転倒した青年に、容赦なくスマホのシャッター音が浴びせられる。
【浄化プロセス開始:集団断罪ボーナス発生】
俺の画面にも、おこぼれのポイントが転がり込んできた。
【徳+500:不徳者の拘束に協力】
「……たった500かよ」
俺は舌打ちした。
あんな連中と分け合うんじゃ割に合わない。
もっと効率よく、一人で、確実に「悪」を仕留める方法はないのか。
ふと見ると、隣にいた女が、一緒にいたはずの仲間の背中にスマホを向けていた。
「え……ちょっと、何してるの?」
「……ごめんね。あなた、今さっき『死ね』って小声で言ったでしょ? 暴言は不徳よ」
「は!? そんなの、こいつが突き飛ばしてきたから……」
「理由はどうあれ、不徳は不徳。浄化完了」
仲間のスマホから、ポイント喪失を告げる無機質な音が鳴る。
さっきまで笑っていた男が、一瞬で「不徳者」へと転落した。
「裏切り……いや、これも『正義』か」
俺はゾッとした。
この街では、もはや敵も味方もない。
隣で笑っている友人も、恋人も
ほんの些細な「失言」や「マナー違反」を見せた瞬間にポイントを奪い取るための「獲物」に変わる。
俺は、スマホを握りしめる手に力を込めた。
誰にも隙を見せてはいけない。
誰よりも「正しく」振る舞い
そして誰よりも早く、他人の「汚れ」を見つけなければならない。
街中の街灯が、監視カメラのレンズのように俺を見つめている気がした。
俺は、逃げるようにその場を後にした。
背後からは、新しい「不徳者」を追い回す、歓喜の叫び声が響き続けていた。
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