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十字路に出るたび周りを捜してしまう。
ある日も清心は仕事帰りに足を止め、住宅街で溜息をついた。ありふれた十字路なのに、今はとても特別な結界で囲われてるように感じる。
こちらからは何も見えないけど、白露からは自分のことが見えてるのかもしれない。以前交差点の景色が見えると言っていたことを思い出していた。
記憶は徐々に戻りつつある。仕事の流れも過去の思い出も、時間をかければ引き出しの中から取り出すことができた。
どうしても思い出せないのは白露の顔と、親友のことだけ。体調は良くなっても、何ら解決してないその二つが頭を悩ませた。
「ん?」
視界の端で何かが動いた。周りが暗いだけにドキッとしたものの、可愛らしい声と姿を確認して安心する。
足元には一匹の猫がいた。怖がる様子もなく擦り寄ってきたため、清心は相好を崩してその場に屈んだ。
野良にしては人懐っこいから、近所で餌をもらってるのかもしれない。
「人懐っこい奴だな、お前」
今、食べ物は持ってない。何か帰りに寄ってくれば良かったと思って頭を撫でていると、ふと名前を呼ばれた。
「清心さん。こんばんは」
「匡!?」
街路灯の下、突然現れた彼にまたもやドキッとする。何故ここにいるのか尋ねると、近くに来たから様子を見に来たと答えた。
「清心さん、具合悪そうだったから」
そう言う彼こそ相変わらず病人のような青白さだから、複雑な気持ちに駆られる。しかし彼は猫を見ると、子どものように近寄って手を伸ばした。
「可愛い……あ、かつお節持ってるからちょっとあげようか」
匡はタイミング良く、ビニール袋からかつお節を取り出して猫に一掴み与えた。あまりあげすぎるのも良くないから、猫とはここで別れた。
「俺は犬派なんだけど、あいつなら家で飼いたいよ」
「そうですねぇ」
二人で夜道を行きながら涼しい風に当たる。
今はこんな何気ない時間がとても尊く感じた。
「なぁ、上がってけよ」
「良いんですか? ご飯だけ渡して帰ろうと思ってたんですけど」
「うん。……一緒に食べてってくれたら、すげー嬉しい」
匡の袖を掴んで、清心は家に向かった。
毛が柔らかくて人懐っこい。あの猫は、ちょっと白露に似ている。そして匡は、白露に似ている。
でも決定的に違うのは、白露は子どもで匡は大人ということ。そして猫は猫だ。自分が昔飼ってた、白露のように白くない。