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36話 ボロい鍛冶屋
昼
村は静かすぎる
ふっくらは
丸い体を前に出し
短い脚で止まった
目の前に
傾いた建物がある
屋根は抜け
壁はずれ
入口は半分だけ開いている
ふっくら
「……これ……鍛冶屋……?」
後ろで
琶が立っている
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が
建物の影を
さらに伸ばしていた
琶
「そうだ」
ふっくら
「……えっと……
壊れてるかどうか……
見るんだよね……?」
琶
「確認だけだ」
ふっくらは
一歩近づく
床は沈み
金属の残骸が
かすかに鳴る
ふっくら
「……壊れてる……
よね……?」
琶
「どう見てもな」
ふっくら
「じゃあ……
もう終わり……?」
琶
「終わりだ」
ふっくら
「早っ!!
読者、今の三秒!!」
ふっくらは
中をのぞき込む
炉は冷え
道具は散らばり
人の気配はない
ふっくら
「……誰も……
いないね……」
琶
「いないな」
ふっくら
「……もともと?」
琶
「……それは確認事項に含まれていない」
ふっくら
「含めてよ!!
気になるよ!!
読者も気になるでしょ!!」
琶は
紙を一枚取り出し
淡々と書く
【対象:鍛冶屋】
【状況:壊れている】
【結果:壊れていた】
【以上】
ふっくら
「以上って!!
短すぎる!!
魂こもってない!!」
琶
「必要ない」
その瞬間
ふっくらは
なぜか足元を見る
床に
古い足跡が
途中で途切れている
ふっくら
「……ねぇ琶……
この足跡……」
琶
「見るな」
ふっくら
「えっ」
琶
「確認は終わった」
ふっくら
「……あ、はい……」
素直に従い
ふっくらは
くるりと向きを変える
歩き出す二匹
背後で
何かが
かすかに崩れる音がしたが
振り返らない
ふっくら
「……ねぇ琶」
琶
「なんだ」
ふっくら
「……これ……
誰の依頼だったの……?」
琶
「……依頼は依頼だ」
ふっくら
「答えになってない……」
村を離れ
鍛冶屋は
視界の外へ消える
存在していたかどうかすら
曖昧になっていく
琶は
読者のほうを見た気配だけ残し
小さく言う
「……確認は
終わったはずだ」
ボロい鍛冶屋は
その日
誰にも
修理されなかった