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37話 本 体 よ り も つ よ い
昼
日差しが強い
ふっくらは
丸い体を地面に置き
短い脚でぼんやり立っていた
腹がふよんと前に出て
足元には
いつもの丸い影
ふっくら
「……今日の依頼……
影……踏むだけ……?」
少し離れたところに
琶が立っている
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が
地面に濃い影を落とし
ふっくらの影を半分飲み込んでいる
琶
「内容は簡単だ」
ふっくら
「簡単すぎない!?
これ……
依頼って言っていいの!?」
琶
「言っている」
ふっくらは
自分の影を踏もうとして
一歩動く
影も一緒に動く
ふっくら
「……逃げるんだけど……
影って……
ずるくない……?」
琶
「影は
正直だ」
次の瞬間
琶が一歩前に出る
大きな影が
ふっくらの影を
完全に覆う
ふっくら
「えっ
ちょっ
もう踏んでる!?」
琶
「踏んだ」
ふっくら
「早っ!!
開始三秒!!
読者、見た!?
わたし何もしてない!!!」
空気が
一瞬だけ
重くなる
日差しが
わずかに歪む
ふっくら
「……ねぇ……
今……
なんか……
変じゃなかった……?」
琶
「気のせいだ」
(目は笑っていない)
琶は
そのまま
報告書を取り出す
爪で
ゆっくり
文字を書く
【対象:ふっくらの影】
【結果:踏了】
【評価:本 体 よ り も つ よ い】
ふっくら
「ちょっと待って!?
文字、伸びてる!!
なんで“よ”がそんなに長いの!?
怖いんだけど!!!」
琶
「正確に書いた」
ふっくら
「正確って何!?
影の強さに
長さとかあるの!?!」
ふっくらは
自分の影を見る
丸い影
さっきより
少しだけ
薄い気がする
ふっくら
「……あれ……
わたし……
弱くなってない……?」
琶
「……比較対象が
悪かっただけだ」
ふっくら
「慰めになってない!!
読者も今
変な沈黙してるよ!!」
琶は
影から足を離す
空気が戻り
日差しも
いつも通りになる
琶
「依頼、完了だ」
ふっくら
「……これ……
誰が読むの……?」
琶
「……世界だ」
ふっくら
「その言い方やめて!!
急にダーク!!
ゆる回だったよね!?」
琶は
読者のほうを見た気配を残し
静かに言う
「……影は
嘘をつかない」
ふっくらは
足元を見て
首をかしげる
丸い影は
何事もなかったように
そこにあったが
報告書の文字だけが
なぜか
元に戻らなかった