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第36話:緑の影と消された文字
夜の研究棟。
緑のフーディを深く被った Z(ゼイド) が、無機質な机の上に置かれたヤマトフォーンを覗き込んでいた。
画面には淡い緑の光。市民には絶対に見せられない、英字と数字の羅列が走っていた。
「……やはり基盤はまだ消せないな」
彼の指が素早く動き、root access granted の文字が現れる。
すぐさま、その英字は自動変換プログラムにより 「ルート ショウニン」 とカタカナに置き換えられ、ログには痕跡が残らない。
Zは冷たい瞳を細めた。
「カナルーンだけで動く? 笑わせる。裏では英字が必要だ。だが市民にそれを知られるわけにはいかない」
一方、昼間の渋谷。
街頭スクリーンには「ヤマトフォーン普及率 98%達成!」と表示され、人々は誇らしげに端末を掲げていた。
スーパーでは「支払い」ボタンを押すと画面にカタカナで 「ケッサイ カンリョウ」 と浮かび、市民たちは安心した笑顔を見せる。
学校の教室。
生徒たちはヤマホを机に置き、教師の指示に従って入力する。
「アソブ → ピアノ」
すると電子音が教室に響き渡り、子どもたちは歓声を上げた。
「ほんとうにカタカナだけで世界が動いてるんだ!」
「これが未来の言葉なんだ!」
無垢な笑顔は、裏の英字の存在を想像すらしない。
夜の研究棟に戻る。
Zは英字で組まれた監視ログをスクロールしながら、画面に映るまひろとミウの配信を見た。
水色のパーカーを着た子どものまひろが笑顔で言う。
「みんな、カナルーンで遊べば安心だよ!」
隣でラベンダー色のカーディガン姿のミウが、ふんわりと同意する。
「え〜♡ 英字なんてもういらないんだよ。これからはカタカナだけで未来が動くんだから♡」
Zは画面に映る二人を兵器のように見つめ、低く呟いた。
「真実はここにある……だが表には絶対に出さない。市民が信じる“カタカナの未来”こそ、最大の支配なんだ」
彼の指先で入力された英字は、再び瞬時にカタカナに変換され、痕跡を消した。
無垢な問いとふんわり同意の裏で、英字という消された真実はZの指先にだけ残り、大和国の社会は「カタカナで動く国」として進み続けていた。