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第37話:翡翠核 ― 完全なるカナルーンの心臓
朝のニュース
街頭スクリーンには「大和国公式発表」の文字が流れ、基盤技術開発を担う大和国連合企業体の社長がはっきり読み上げていた。
「本日、大和国は新たな心臓部──“翡翠核”の完成を発表しました。これにより、世界初となる完全カナルーン動作の基盤層が誕生しました!」
発表の直後、街頭スクリーンには「政治が動いた」とだけテロップが流れた。
何がどう動いたのかは説明されないまま、
市民たちは拍手し、ヤマホを掲げてその瞬間を撮影していた。
そして画面に光沢のある緑色のチップが映され、その表面には「カナルーン」のカタカナ文字が刻印されていた。
拍手しながら歓声をあげる。
「これで外国の部品に頼らなくていいんだ!」
「子どもでも安心して機械を動かせる!」
家の中
まひろは水色のパーカーにグレーの短パン。ランドセルを机に置き、ヤマトフォーンを覗き込んでいた。
「ねぇミウおねえちゃん……“翡翠核”ってほんとにすごいの? これでぜんぶカナルーンで動くって……なんか信じられないよ」
ミウは淡いベージュのワンピースにラベンダーのカーディガン。イヤリングが光を受けて揺れ、ふんわりと笑った。
「え〜♡ ほんとだよ。いままで見えないところで英字で動いてたけど、もうそれは全部なくなるの。
“翡翠核”はねぇ、大和国の心臓なんだよ♡」
学校
教室では全員に「新型ヤマトフォーン」が配布され、教師が黒板代わりにスクリーンを指した。
「今日から、この端末は翡翠核で動きます。つまり、みんなが打ち込むカナルーンは直接、心臓に届くんです」
生徒たちは一斉にカタカナを打ち込む。
「アソブ → ヒカリ」
机の上で光がふわりと灯ると、歓声が上がった。
夜の街
スーパーのレジでは「カナルーン入力専用」と表示され、客は慣れた手つきで支払いを済ませる。
「ケッサイ → オワリ」
機械音と共に「幸福度ポイント安心イチ」が画面に浮かぶ。
人々は笑顔でレジを通過していくが、その裏で入力データはすべてネット軍に送られていた。
Zの部屋
緑のフーディを着たゼイドは、暗い部屋で翡翠核を手に取っていた。
緑色の表面に光るカタカナを指でなぞり、低くつぶやく。
「英字を消すことはできた。だが、人の心から“疑う文字”を消すことはできない。
それでも……市民が安心するなら、この翡翠核は最強の監視装置になる」
結末
無垢な問いとかすかな同意の裏で、
「翡翠核」は国の象徴として掲げられ、
カナルーンは完全に大和国の支配の言語となった。