テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
深夜の心霊体験。
最初は洞窟のような景色の中で、ぼんやりと目の前の祠を眺めていた。
生まれたばかりの赤子のような泣き声が洞窟内に小さく響いている。
気付けば祠の如来像のようなものに手を合わせていて、何かお願いをしなきゃと思い立つ。
でも何をお願いするんだったか思い出そうとして、不意にこれが夢の中だと悟る。
日常生活の中で洞窟の中にいることも、祠に手を合わせることもない。
はっとして、なんだ此処はと我に返って引き返そうとすると、赤子の泣き声が大きくなった。
何処で泣いているのだろうと見渡すが、近くに赤子の姿はない。
すると突然、腰の辺りに細い腕が巻き付いた。驚いて視線を落とす。
背後から抱きついたのは、見知らぬ女の子だった。
見た目は四歳かそこらで、特に外見だけなら怖い雰囲気もない。顔も可愛い。
ガリガリでもなく、ほどよくプニプニとした幼い子独特の感触がやけにはっきりと伝わってくる。
どうしたの、と声を掛けようとした瞬間、ボトッと何かが落ちる音がした。
祠の方からだった。女の子から視線を外して祠を振り返る。
祠の前に、グシャリと潰れた赤子が落ちていた。赤黒く変色した体が痛々しい。
そんな潰れた赤子が激しく泣いている。背筋に悪寒が走った。
逃げようとしたが、腰に女の子がしがみついているせいで動けない。
ふと、腰元で女の子の口元が動いていることに気付いた。何か喋っている。
目の前の赤子が怖いのだろうか?
そう思って女の子の顔に少し耳を寄せると、発音が不明瞭だが何やら呪を唱えているように感じた。
きっと赤子に対してではない。女の子は私の腰から顔を離し、睨むような上目遣いで私の目を真っ直ぐ凝視したまま、得体の知れない言葉を唱える。
まるでお経を逆再生しているような発音だ。しかも幼い声に混ざって老いた大人の低い声のようなものまで混ざっている。聞いていて鳥肌が立つ。
でもこれは夢、もしくは幽体離脱しているだけ。だとしたら私は刀が使える。この刀、大体どんな奴にも斬撃が当たる。今までずっと危ない時はそれで対処してきた。
肌身でこの女の子は強い奴と感じて、刀を抜いた。だが、いくら振り回しても斬撃が当たらない。近過ぎるせいかと思ったが、女の子の体を斬撃がすり抜けていく。
(当たらない……おかしい……こいつ、私じゃ対処できない奴だ……)
女の子の声に老いた大人の声が幾つも重なっていく。お経をゆっくり逆再生しているような発音はそのままに、声だけ増えていく。
それに合わせて赤子の泣き声もどんどん大きくなる。
此処に長居したら不味いことになると、直感的にそう思った。
憑依守護のひなにSOSを送る。何度も何度も呼ぶ。
やがて、ひなが応答したので「引っ張り戻して」と伝えれば、ひなにもお経のようなものが聞こえたのか、急いで引っ張ってくれた。
しかし、生身に戻っても金縛りで動けない。よくあることだから予想はしていたけれど、耳鳴りも酷かった。
耳鳴りに混ざって赤子の泣き声が頭に響く。頭の中だけに響き渡っていた泣き声はやがて肉声として耳元で聞こえてきた。
珍しく自力で金縛りが解けない。そういえば、さっき刀の斬撃も効かなかった。
これは本当に不味いかもしれない。
そこでやっと危機感が仕事を始めた。
私の刀で効果がないなら、外守護のS兄達を呼んだら逆に危ないかもしれない。
そう思って、円の外側と呼んでいるS兄達より更に強い守護を名指しで呼んだ。
ただ、金縛り中に呼んでも意識が遮断されるのかツリーハウスまで届かない。
S兄達は専属守護だから一応何処にいても届くが、彼等を呼ぶのは危ない気がする。
なんとか自力で首から上だけ金縛りを解いて、掠れた肉声で外側守護を名指しすると、やっとSOSが届いたようで、一瞬ですっ飛んで来てくれた。
その瞬間金縛りが全て解けた。
ベッドの上で横になったまま気配を探ろうとしたら、雑貨などを箱に入れて押し込んでるベッドの下から唐突にガンッ!!!という振動と騒音がした。
ベッドが鉄パイプで出来てるから、振動がモロ体に伝わってくるし、騒音は響く。
まるで下から蹴り上げたかのように上下にベッドがボコッと揺れた。
ちょうどワイの背中に当たる位置に衝撃がきて、ちょっと痛かった。
外側守護に対応を任せて私も連勤中だからとその後は寝たけれど、最初は驚いて隣で寝ていた夫を起こしてしまった。
夫が「下の箱に電池の入った物とかない?爆発とかしてたら洒落にならないよ」と言うので一応確認もしたが、掃除用の使い捨ての手袋やポリ袋、黒兎達のご飯しか入っていない。
爆発するような物もなければ、私の背中に当たる位置にむしろ箱はなかった。ベッドと床の間には空洞しかない。
外側守護と揉み合った霊体(赤子か女の子)がぶつかったのだろうなと、後から思った。
予想通りS兄達には太刀打ちできないレベルの相手だったようで、今回の私の判断は良かったと、戻ってきた円の外側の守護に褒められた。
あのままSOSを出さなかったら、私は死んでいたのだろうか。
そしてあの祠は何だったのだろう?
見たところ、酷い亡くなり方をした赤子と未就学児のような女の子がいたことから、水子供養か何かだったのだろうか。
全てが謎である。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!