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恵菜は、西国分寺にある実家に身を寄せた。
彼女の両親は、娘の結婚生活を聞き、離婚に即賛成。
勇人と義両親は離婚に猛反対し、以降、恵菜と勇人、彼の両親を交えた話し合いは、一年近くに及んだ。
最後の話し合いで、八王子の勇人の実家に行った時も、彼の家族に引き止められたけど、恵菜の意思は固い。
勇人は、未練がましく、署名するのを渋っていたけど、ついに諦めて、離婚届に署名した。
『離婚届は、私が提出しますので。今までお世話になり、ありがとうございました』
恵菜は、勇人と義両親に深々とお辞儀をして、勇人の実家を出ていく。
離婚の話し合いが長引いたストレスなのか、恵菜の体重は更に落ち、ピーク時から比べると二十キロ以上減っていた。
二〇二四年八月、彼女が役所に離婚届を提出し、勇人と恵菜の離婚が成立。
全てをリセットしたいと考えていた彼女は、今まで正社員として仕事していた職場も、八月いっぱいで退職した。
***
「今の職場は、昨年の九月から働き始めたんだ。ビックリさせちゃって、ゴメンね……」
恵菜は、奈美に一礼した。
「ようやく分かったよ……。年末にファクトリーズカフェで偶然会った時、恵菜の名札を見たら『相沢』って書いてあるし、前に会った時と比べたら、激痩せしたし……。大変……だったんだね……」
恵菜の短い結婚生活を聞いた奈美は、表情を曇らせ、目尻を下げた。
「奈美の結婚式を欠席したのは、離婚したばかりで、おめでたい席に離婚ホヤホヤの私が出席したら、何か縁起が悪いって……思ったんだよね……」
「ねぇ。もしかして、恵菜が激太りしたっていうの、早瀬くんとか義理のお母さんによるストレスだったんじゃない?」
「そうなのかね? 今でも分からないなぁ」
恵菜は小さく首を横に振り、うっすらと笑みを浮かべていると、奈美が遠くを見つめながら、小声で独りごちた。
「それにしても、恵菜は『サイレント・ボム』だね…………」
「何? 『サイレント・ボム』って」
変な事を言う奈美に、恵菜は眉根を寄せる。
「『物言わぬ爆弾』だよ。恵菜が、何も知らないフリして、いきなり早瀬くんに離婚届を突き出したって言ってた時に、そんな言葉が思いついたって感じ?」
「奈美も相変わらず、大人しい性格の割には、いきなり変な事を言うよね」
「そうかな?」
恵菜は、何度もコクコクと首を縦に振り続けた。