テラーノベル
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カイルは剣を下ろさない。
そのままロビンの首元へ切っ先を向ける。
「抵抗するな」
静かな声。
だが有無を言わせない圧力があった。
ロビンは両手を上げる。
「はいはい」
「大人しくしますよ」
ガルドが近付いてくる。
「おつかれだったな団長」
縄を取り出す。
ドランも後ろに立つ。
完全包囲。
ロビンは苦笑した。
「信用ないなぁ」
「当然だ」
リシアが即答する。
ロビンの両手が拘束される。
ようやく一息つける状況だった。
リシアが一歩前へ出た。
「団長」
カイルが振り向く。
「ユナは現在、五番隊員と共に敵アジトで待機中です」
冷静な報告。
「これは私の判断でそうさせました」
一拍。
「勝手な行動と判断されるのであれば、いかなる罰も受けます」
カイルは即座に首を横へ振った。
「いや」
短い返答。
「君の判断は正しい」
リシアが少し目を見開く。
カイルは続けた。
「それに」
小さく笑う。
「君の判断で間違ったことは、一度もないだろう」
リシアは何も言わない。
ただ僅かに頭を下げた。
「……ありがとうございます」
カイルはセラを見る。
「セラ」
「ユナへ連絡を」
「はい、団長」
セラが通信魔法を展開する。
そして。
カイルはふと思い出したように尋ねた。
「で」
視線をリシアへ向ける。
「アルドはどうした?」
沈黙。
リシアが首を傾げる。
「……アルド?」
「誰ですか、それは」
カイルの眉が動く。
「何を言っている」
だが。
リシアは困惑した顔をする。
「申し訳ありません」
「心当たりがありません」
セラも首を傾げた。
「そんな人いましたっけ?」
ガルドが割り込む。
「おいおい団長」
「流石にこの状況で冗談はやめてくれ」
ドランも不思議そうな顔になる。
「地下へ向かったのは」
「リシア殿、ユナ殿、私の3名だけですよ。」
セラはそう答える。
カイルの顔から表情が消える。
「……何?」
周囲を見る。
誰も分かっていない。
誰も覚えていない。
沈黙の時間が流れる。
だが、その沈黙もすぐ晴れた。
1つの大きな音。
ズドォォォォン!!
大地が揺れた。
建物の窓が砕ける。
瓦礫が跳ねる。
遠くだ。
かなり遠い。
だが。
全員が理解した。
何かが来ている。
ズドォォォン!!
再び。
今度は少し近い。
ゾワッ――
全員の背筋に悪寒が走る。
リシアが反射的に振り向く。
セラの表情が固まる。
ドランが眉をひそめる。
圧倒的な魔力を騎士団が感じる。
ゼルヴァンとは比べ物にならない。
ロビンとも比較にならない。
空気そのものが重くなる。
呼吸が苦しい。
立っているだけで本能が警鐘を鳴らす。
ズドーン。
ズドーン。
ズドーン。
徐々に近付いてくる。
カイルが目を細める。
その方向は。
街の向こう側。
グラディウスの外。
森の先。
そこにあるものは一つしかない。
――魔王城。
リシアが小さく呟く。
「まさか……」
やがて。
遠くの建物の上から。
巨大な影が姿を現した。
誰も言葉を失う。
身長およそ十五メートル。
漆黒の皮膚。
天へ伸びる二本の角。
血のような赤い瞳。
王都で配られた資料。
討伐会議で語られた情報。
その全てと一致する。
カイルが息を呑む。
「あれが……」
誰かが震える声で言う。
「魔王……」
巨大な存在はゆっくりと歩いていた。
ズドーン。
ズドーン。
一歩ごとに街が揺れる。
騎士達は空を見上げるしかできない。
ロビンがぽつりと漏らす。
「魔王様が来たのか」
乾いた笑み。
「あーあ」
空を見上げる。
「ここももう終わりだな」
だが。
カイルは剣を抜いた。
銀色の刃が月光を反射する。
「いや」
その一言で空気が変わる。
ロビンが視線を向ける。
カイルは巨大な魔王を見据えたまま言った。
「手間が省けた」
騎士達が振り向く。
「ここで」
剣先を魔王へ向ける。
「魔王の息の根を止める」
ガルドが笑う。
セラが杖を握る。
ドランが盾を構える。
リシアが静かに目を閉じる。
そして。
カイルは振り返った。
「王国白銀騎士団!!」
声が響く。
全員が背筋を伸ばす。
「皆も感じているだろう!」
巨大な魔力。
迫り来る脅威。
誰も否定できない。
「今まさに!」
カイルが叫ぶ。
「ここグラディウスに!」
「魔の王が姿を現した!!」
騎士達の顔が引き締まる。
「前戦の傷が癒えていない者もいるだろう!」
「恐怖している者もいるだろう!」
「だが!」
剣を高く掲げる。
「今度の相手は!」
「皆の力無くして打ち破れない!!」
静寂。
そして。
カイルが咆哮する。
「武器を取れ!!」
剣が抜かれる。
「拳を上げろ!!」
槍が掲げられる。
「この戦い――」
全員が息を呑む。
「勝利あるのみだ!!」
うおおおおおおおおおおおおおお!!!
騎士団の雄叫びが夜空を揺らす。
ガルドが大剣を振り上げる。
セラが魔法陣を展開する。
ドランが盾を叩く。
リシアが剣を構える。
ズドーン。
ズドーン。
ズドーン。
魔王はもう目前。
その赤い瞳がグラディウスを見下ろしていた。
(一旦、アルド レインの件は後回しだ)
カイルは心の中で整理し、今目の前のものに
集中する。
夜風が吹く。
戦場が静まり返る。
そして。
カイルが静かに剣を前へ向けた。
「総員――」
一拍。
「魔王討伐任務、開始!!」
その瞬間。
巨大な魔王の赤い瞳が。
ゆっくりと騎士団へ向けられた。
コメント
1件
おお…いやもう、震えました。アルドさんの存在が誰からも消えている不気味さと、そこに突然現れた本物の魔王。カイル団長が「手間が省けた」と剣を向ける場面、本当にかっこよかったです。騎士団一丸となるラストの盛り上がり、続きが気になって仕方ないです…!
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