コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「くっ……」
私は、アルベドに向かって飛んでくる氷の刃を防ぎながら、自分に飛んでくる刃を光の盾を何重にもはって守った。それでも、何十秒かに一回張り直さなければひび割れたところを狙って飛んでくるため、私はいつも以上に魔力を消費していた。
(同時に魔法使うこと何てないから、維持が難しい……)
アルベドは激しく動き回るし、氷の刃も不規則だし、目で追うのがやっとでとてもじゃないが彼を守りながら戦うなんてことは出来そうもなかった。
そんなとき、アルベドが急にこちらに戻ってきて、私を庇いながらナイフを構えた。私は、アルベドの行動に驚いて振向けば、彼の方に氷の刃がかすっていた。
「あ、アルベド!?」
「お前、後ろ守り切れてないぞ。ほんと、死にたいのか?」
「何でそんな言い方しか……アルベド、肩」
彼の言い方はあまりに厳しかったが、彼が守ってくれなければ後ろから飛んできた氷の刃に私は胸を貫かれていたところだろう。
アルベドは、自分の肩を押さえながら、これぐらいどうってこと無いとフッと口角を上げて笑った。でも、あの鋭利な刃がかすったんだ。痛くないわけ無い。
だが、私の魔法で治癒すると違う属性の魔法のため反発してしまうだろう。だから、今すぐに治癒魔法を使うことが出来なかった。光魔法と闇魔法相反する魔法だから。
「大丈夫なの?」
「ああ、だが、今ので魔力を補給するために一旦攻撃がやんだようだな」
「なら、今のうちに!」
「そうだな。だが、すぐ回復するだろう」
と、アルベドは、忌々しそうに言うと、ナイフを構え直した。
彼曰く、魔力を補給する事が出来るドリンク剤があるらしくきっとそれを飲んでいるのだろうと。だが、飲んですぐに回復するわけではなく徐々に回復するそうだ。だから、その一瞬を付ければどうにか倒すことが出来るだろうと。
「わ、私は何をすればイイ?」
アルベドは、私の方を見ずに答えた。
私は、ただ彼に守られるだけの存在になるつもりはない。私だって何かしたいのだ。だが、彼は、私に何もさせる気は無いようで、こう言った。
お前は俺が守るから安心しろ、と。
あまりにもかっこつけた言葉に私は、思わず彼の足を踏みつけてしまった。
「痛ぇ! 何すんだ!」
「そうやって、かっこつけても意味ないから。痛いんでしょ。私だって、守られてるばかりじゃ嫌なの。アンタに足手まといだって思われるのが嫌」
そう、私が自分の思いを伝えれば、アルベドは面倒くさそうに、なら……と私に出来ることを教えてくれた。
「閃光って出来るか?」
「閃光?」
「ああ、暗くてよく見えねえんだよ。だから、一瞬でもこの部屋を照らしてくれ。眩しい花火みたいなのを一発な」
と、ニヤリと笑って見せた。
それを聞いて、私は少し考えた。一度も使ったことがない魔法。でも、それはイメージはわりとしやすいものだった。閃光弾みたいに、一瞬ぴかっと白く光る球を生成すればいいのだと。魔法の属性は光でいけるだろうと私は、イメージを固めた。一度も使ったことがないが、これでアルベドの役に立てるなら。
躊躇っている暇など無かった。私は、覚悟を決めるように大きく深呼吸をして、白い球体を作り出す。それと同時にアルベドは駆け出し、合図をしたら光らせろと闇の中に消えていく。彼は、きっと自分に魔法をかけているためこの閃光を放ったところで大丈夫だろうと私は予測し、彼の合図を待った。
暫くして冷気が流れ静寂が支配する空間に、アルベドの声が響いた。
「エトワール、今だ!」
私はその合図と同時に、目を閉じ、作り出した白い球体を発光させた。それは、目を閉じていてもその白さが、明るさが分かるぐらい眩く輝き辺りを照らす。そして、光が収まった時、私は目を開けると氷の魔法を繰り出していた魔道士と思しき黒いローブに青い線が入った男が、アルベドのナイフによって床に転がっていた。
アルベドの握るナイフからは真っ赤な血がぽた、ぽた……と雫となって落ちているのが見えた。
(やったの……?)
私が呆然としていると、先ほどまで冷気で満ちていた冷凍室は一気に外気が入り込んできて、その冷たさを失っていった。
どうやら、あれもあの魔道士が放っていたらしく、魔道士が魔法を発動できなくなったため温度を保つことが出来なくなったのだろう。これで、凍え死ぬ事はなさそうだと、私は安心しアルベドに近付いた。
「アルベ……」
「おい、お前、これは誰の指示だ?」
私がアルベドに手を伸ばしたとき、アルベドは目の前に倒れている男に対してそう低い声で言った。
男は、頑に口を開こうとせず黙秘を続けていたが、アルベドがナイフを男の喉元に突き立てられても尚、男は口を開こうとしなかった。
「言わねえのか、ならお前に用は――――」
「待って、アルベド!」
と、私は慌てて彼を止めた。
何故止めるんだと、不満げな顔をしていたが、私にはどうしても確認したいことがあったのだ。だって、この部屋にトワイライトが本当にいるのかどうか、それを確認するまでは生かしておかないとと思ったから。
「トワイライトは何処? ここにいるの?」
そう問いかけたが、男は目を見開いただけで私の問いには答えなかった。それどころか、とても奇妙なことを言い出したのだ。
「女神――――」
「女神?」
男はそう言うと、血走った目を酷く揺らし、私に手を伸ばした。だが、その手をアルベドは蹴り飛ばし、男の腕を踏みつけた。ゴキッっと聞きたくもないような音が耳に響き、私は思わず耳を塞いでしまう。容赦がないと思うと同時に、こういう拷問じみた、血も涙もないようなアルベドの行動にはやはり慣れることが出来なかったのだ。
だが、そんな私とは裏腹に、彼は淡々と質問を続けた。まるでそれが当たり前かのように。
男は、痛みに耐えながら口を開いた。しかし、それは私の望んでいる言葉ではなかった。先ほどの言葉を繰り返し続けた。
「女神だ、ああ、女神だ。これでは、我々の悲願が……アアッ!」
「ひっ!」
そう言うと男は、口から血を流して倒れてしまった。
私はどうして男が倒れたのか理解できず触れてみようとしたが、アルベドに制され、お前は見なくていいと私に見えないよう前に立った。それから、男がどうなったのかアルベドは男の身体に触れながら暫くすると、感情の内容な声で告げる。
「死んでるな、こいつ」
「え? ど、どうして」
「奥歯に毒針でも仕込んでいたんじゃねえか? 舌をかみ切ったみたいな感じじゃなかったからな……それほど盲目的な信仰を」
「混沌……」
私はそう呟いて死んでしまった男を見下ろした。それから、悪人だと分かっていても彼に手を合わせた。
その行動をアルベドはいい風に思わなかったが、優しいんだなと呟いて私の頭を撫でた。
ヘウンデウン教はこの世界を滅ぼそうとしている。そして、混沌を信仰し、災厄を進行させようとしているのだ。だから、許してはおけないし見過ごすわけには行かない。だが、信仰心がここまで人を変えるのかと怖くなってしまった。目的の為なら死も恐れないと。
「…………」
「俺も聞きたい情報は聞けなかったからな。分かったのは、今回これを指示していたのがラヴァインだったと言うことだけか」
彼は、魔道士の懐からナイフを取り出して、柄に刻まれた紋章を見せてきた。それは、彼の家の家紋で金色のチューリップが刻まれていた。
私はそれをちらりと見て、アルベドが調査は振り出しだな見たいな顔を見て、ため息をつくように応える。
「そう……」
「それで、本物の聖女様を探すんだろ? 手伝うぞ」
「うん、ありがとう」
私は、彼の提案に乗り、冷凍室を探すと、部屋の隅に両手両足を縛られ、気を失っていたトワイライトを見つけた。