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広大な魔の森を挟んで隣に位置するシュコール領には、冒険者と狩人が集まる街が多い。雑多な人が集う故に、治安が良いとは言えないが活気あふれる領地ではあった。

力試しや刺激を求めて様々な地域から訪れてくる結果、多種多様な民族が居住しているので多少見かけない顔がウロついていても気に留められることはない。


そんな街の外れに、はるか昔のヒロセの祖先は現れた。明るい光に包まれた彼の突如の出現は、森へ向かう狩人達に目撃されていた。


「家によっては光に包まれていた、ではなくて、光の中から現れた、と伝わっていたりもします」


長い年月をかけた伝承は、家ごとに微妙なニュアンスを変えてしまってはいたが、共通するのは”光”だとケヴィンは力説した。


「そして、この獣の足跡の家紋です」


光と獣とくれば、聖獣の光魔法だと考えるのが一番自然だとケヴィンは考えていた。光の原因を神光と考えるよりも、よっぽど説得力がある。幻獣と呼ばれることもあるが、古い文献でも記述が残されているくらいだから一部の聖獣は決して空想の生き物とは言えない。


「全ての迷い人に聖獣が関わっていたかどうかは分かりませんが、少なくともシュコールの例では可能性は高いでしょう」

「では、先生はその聖獣は具体的に何だと?」


経典や文献で記載されている聖獣は猫だけではない。彼が何をイメージしているかにはとても興味があった。もしズレた答えを出して来るようならと、ベルは見定めるようにケヴィンを見た。

研究者はしばらく顎を撫でながら考えている素振りをした後、にやりと笑った。


「その答えによっては、私はここから追い出されてしまうのでしょうね」

「ふふふ。そうかもしれませんね」


中途半端な研究者には葉月の秘密は話せない。彼が本気で迷い人の謎を解くつもりがあるのなら、付け焼刃な仮説は立てていないはずだ。そして、まだ話してもらえていないことがあるのは彼も気付いているはずだ。


「具体的に資料が残っている聖獣は、梟と猫だけです。他は経典に載っているだけで実在するとは言い難いですね」


梟と猫の二択なら、肉球のヒントが出た時点で簡単に絞り込める。


「関わっている可能性がある聖獣は、猫でしょう」

「あら。先生の答えは猫なんですね」

「はい。現段階では猫以外は考えていません」


なるほどね、とベルは隣で考え込んでいる葉月を覗き見た。葉月が転移することになった原因は愛猫だ。それは間違いないだろう。ケヴィンの仮説は限りなく正しい。


「猫がいれば、私は戻れるんですか?」


葉月の場合、猫に連れられて来たというよりは、猫の転移を阻止しようとして失敗した挙句に一緒に来てしまったと言った方が良い。少女はたまたま来てしまっただけで、実際にこの世界に用があるのは猫の方だ。


一体、くーは何の目的があってここへ来たのだろうか。そして、元の世界に戻るつもりはあるのだろうか。


「猫がいれば、可能性はあると思います」


ただし、その猫に転移魔法を使う意志があり、何らかの条件が揃っていないといけないのでは、と眉間に皺を寄せて考えながら研究者は答えた。


「もしかして、猫に心当たりが?」


葉月の判断で話して良いものか分からず、隣に座るベルを見る。ベルも少し考えていた様子だったが、思いついたように葉月がソファーの横に置いていた一冊の本をケヴィンへと差し出した。


「この本はご存じですか?」

「”虎とはぐれ魔導師”ですね。学舎の子供達にせがまれて、よく読まされてますよ」


そう言って、あれ? と首を傾げた。


「この魔導師は、確か……」

「ええ。父です」


ほう、と感心した声を出し、この本が何か? と逆に聞き返す。


「この本に出てくる虎がトラ猫だったとしたら?」

「トラ猫、ですか?」

「ええ。まだ父には確認できてはいないのですが、猫だったんじゃないかという話を聞いたところなので」


ケヴィンはとても驚いた顔をしてはいたが、好奇心の方が強かったようで身を乗り出してきた。


「その、猫じゃないかと言われている虎は今はどちらに?」

「私が生まれる前にはもう居なかったので……」

「それを今、確認中と」


ええ、とベルは静かに頷いた。王都からの返事を待っている最中だ。

ケヴィンは思いついたように手帳へとメモを書き入れていた。


「その物語の結末には実は2種類あるのはご存じですか?」


初めて聞いたと、ベルは驚いた風に首を横に振った。館にあるのはずっとこの一冊だけで、他にも書かれていたのは知らなかった。


「大まかな内容は同じなのですが、ラストの竜の討伐のシーンが違うんです。これは……」


パラパラと本の後半のページを捲って確認する。


「これは虎が一匹だけのやつですね。初版では虎の仲間も途中から加わって三匹と魔導師が協力して竜を倒すんです」

「虎が他にも?」

「ええ。初めに刷られた話は虎は三匹だったんですが、増版分からは一匹に書き換えられたそうです」


どちらの結末が事実に近い物なのかはベルの父本人しか知らない。でももし、虎が三匹だとしたら……つまり、猫も三匹いたということなのだろうか。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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