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「それ……その赤いの……僕また閉じ込められちゃうの!?」
「赤いの?」
エステルは、はっとして胸元のペンダントを握った。
(もしかして、このペンダントの石に怯えている……?)
この石を見た瞬間、ミラの顔色が変わった気がする。
「エステル、それやだ! どっかやって! お願い!」
「ミラ、ほら、もう見えなくしたから大丈夫よ。落ち着いて、ね?」
急いでペンダントを服の下に隠すが、それでもミラの怯えは止まらない。
こんなに取り乱した姿を見るのは初めてだ。
「だめ! やだ! 捨てて!」
「ミラ……」
やがて外が騒がしいことに気づいたのか、アルファルドがやって来た。
「どうしたんだ」
「あの、アルファルド様がくださったペンダントをミラが怖がっているみたいで……」
エステルが説明すると、アルファルドがわずかに顔をしかめた。 後悔するような、申し訳なさげな様子で額に手を当てる。
「……すまない。私の配慮が足りなかった」
「配慮……?」
配慮とは、一体どういう意味だろう。
やはりミラはこの石に何か嫌な思い出があるのだろうか。
そういえば、さっきミラは「また閉じ込められちゃうの?」と言っていた。
(閉じ込められるってどういうこと? 一体誰にそんなことをされたの?)
まだ幼い子供がこれほど怯えるなど、尋常ではない。 どうすればミラを落ち着かせられるだろうかと考えていると、アルファルドがミラの肩に手を置いた。
「ミラには私が説明する。ミラ、ひとまず私の部屋に行こう」
「アルファルド……! やだ! 怖い……!」
「そうだな、私が悪かった」
アルファルドが泣きじゃくるミラを抱きかかえて、家の中へ戻っていく。
まるでひどい発作でも起こしたように体を震わせ、しゃくり上げていたミラ。
何度も「やだ」と叫んでいた声からは絶望感が感じられた。
ミラの辛そうな声と姿が脳裏に焼きついて離れず、エステルの胸がずきずきと痛んだ。
(ミラが怯えていた理由は分からないけど、あとでちゃんと謝ろう……。それから、ミラに温かいホットミルクを作ってあげたいわ)
ミラが落として土のついた靴下をエステルがそっと拾い上げた。
◇◇◇
干しかけだった洗濯物を急いで干し終えた後、エステルは居間へと戻った。
アルファルドとミラはいない。きっとまだアルファルドの部屋で話をしているのだろう。
(アルファルド様はミラにうまく説明してくださったかしら……。ミラの気持ちが落ち着いてくれればいいけれど……)
アルファルドはミラが赤い石を怖がっていた理由を知っているようだった。
やはりアルファルドとミラには何か特別な絆があるのだろう。
自分もそこに混ざりたい気持ちはあるが、今回アルファルドとミラの二人きりで話すということは、きっとまだエステルが関わることは許されないのだろうとも思う。
(少しもどかしいけど、わたしはわたしにできることで支えよう)
エステルが台所に立ち、おやつのビスケットとホットミルクの用意を始める。
しかし、ちょうどアルファルドとミラが居間にやって来たので、エステルは準備を放り投げてミラのもとに駆け寄った。
「ミラ……! さっきはごめんね」
エステルが真っ先にミラに謝る。
ミラは泣きはらして真っ赤になった目をぎゅっと瞑り、ふるふると首を振ってエステルに抱きついた。
「ううん、僕もごめんなさい……! あのペンダントがエステルを守るためのものだって知らなくて……。もう捨ててなんて言ったりしないから」
「もう怖くないの?」
「本当はまだちょっと怖いけど、そのペンダントがないとエステルが苦しくなったり、お城の人に見つかったりしちゃうんでしょう? そのほうがもっと嫌だから……」
「ミラ……」
自分が怖いことよりも、エステルのことを考えてくれるミラがいじらしくて、小さな可愛い頭にそっと頬を寄せる。
「ありがとう、ミラ」
ミラとくっついて、ぎゅうぎゅうと抱きしめ合っていると、アルファルドがやや気まずそうに話しかけてきた。
「……エステル」
「あっ、アルファルド様。何でしょうか?」
「ペンダントを出してもらえるか」
「はい」
一応ミラには隠しながら、言われたとおりに服の下からペンダントを出し、アルファルドに見せる。
アルファルドが長い指で石に触れ、指先から魔力の光を放つと、赤い石が瞬く間に明るい緑色の石へと変わった。
「石の色を変えた。これならミラもそれほど怖くはないだろう」
アルファルドの言葉にミラがうなずく。
「うん、これなら怖くないよ。エステルの目の色そっくりだもの」
エステルも、たしかに自分の瞳の色と同じだと思いながら、なにやら爽やかな印象になったペンダントをまじまじと見つめる。
「エステルの目、とっても綺麗だもんね」
「別に、そういうつもりではなかったのだが……ミラが気に入ったならいい」
「うん、もうこのペンダントが大好きになったよ。ありがとう、アルファルド」
それからエステルは急いで三人分のビスケットとホットミルクを用意した。
砂糖を混ぜたホットミルクをミラが美味しそうに飲む。
その姿にエステルはほっと心を和ませながら、自分も温かなミルクにゆっくりと口をつけるのだった。
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