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#恋愛
ばたっちゅ
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モブD
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3
エルムに案内されたのは、ハルディンの街の中心部に位置する城のように立派な屋敷だった。
(俺が便利屋時代、絶対に依頼が来ないタイプの家だ……)
床は大理石でできており、天井には豪華なシャンデリア。
あまりに場違いな空間に俺は冷や汗が出てくる。
「す、凄い家だね、ユウト」
サフランの声が震えていた。彼女は俺の背中に隠れるようにして小さくなっている。ティアレだけは平然とした顔をしていた。
そんな俺たちの様子を、廊下の壁際に並ぶ使用人たちが遠巻きに眺めている。
その表情はゴミを見るような視線だった。
「おい、見ろよ……エルム様が直々に平民を連れてこられたぞ」
「明日の料理対決の代役だってよ、あんな薄汚い平民に勝てるわけないだろう。相手は宮廷魔法使いの料理人だぞ?」
「エルム様、あんな平民に我が家の命運を賭けるなんて……」
(聞こえてる、聞こえてる……!!)
ヒソヒソと囁かれる容赦のない言葉。全て俺の耳に聞こえている。どんな表情をすればいいかわからなくなったが、前世でも数々のクレーマーを相手にしてきた俺だ。対処法はわかっている。
(それに……そう言いたくなる気持ちもわかるっすよ。こちとら一銭も持っていない破産寸前の冒険者未満。そう思われても仕方ないっす)
そう思いながらも、屋敷の隅々に目が行ってしまう。
シャンデリアの傘を見れば埃が積もっており、廊下の装飾の隙間にも細かな埃が入り込んだままだ。
(全く、甘いっすね。俺をここの使用人として雇えば、あんな埃もないピカピカの屋敷に仕上げてやるのに)
周囲の冷ややかな空気をよそに、俺は職人目線と少しだけの優越感に浸っていた。
――
俺たちはアルダーに応接室に案内された。
彼はエルムの側近である騎士らしい。鎧は綺麗に磨かれており、さすが金持ちの屋敷らしい、隙のない身なりだ。
しかし、様子が少しおかしかった。アルダーは少し俯いて重々しい口調で切り出した。
「ユウト殿。明日の料理対決について、改めて詳細をお伝えしておきます」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「明日の対決はただの料理の催しではありません。我がエルム様と対立する悪徳貴族との代理戦争のようなものなんです」
アルダーはそこで言葉を区切った。後ろでサフランが動揺しているのがわかる。
「もし負ければエルム様の面子が丸潰れになるばかりではありません。我々は多額の金額を失うことになるでしょう。損失を貴方たちに払わせることはありませんが、報酬はお渡しできません」
「負ければ奴隷行き……!」
後ろでサフランとティアレの震える声がする。
「いやだぁぁ、変態おじさんのペットになりたくないー!」
「僕だって嫌だよぉ」
(ったく、なんて妄想してるんすか!)
思わず心の中で突っ込んでしまった。でもそれだけじゃない。ハルディンの街でこれだけの権力を持っている貴族を敗北に導いた戦犯となれば、俺たちもこの街にいられなくなる。
(ゆっくり便利屋でもしながらスローライフを送りたいのに!)
「ちなみに明日の対決相手の料理人ってどんな人なんすか?」
俺が冷静に尋ねると、アルダーは更に表情を曇らせた。
「悪徳貴族がお抱えにしている酷く傲慢な料理人。……といっても本職は宮廷魔法使いなんですがね。名前はカエンボクと言います」
「……っ!!??」
その名前を聞いた瞬間、ティアレの肩がビクッと跳ね上がった。彼女の顔から一気に血の気が引いていった。
「ティアレ、どうしたんすか。知ってる相手っすか?」
「知ってるも何も……」
ティアレは青ざめながら続ける。
「カエンボクと言えば、炎魔法を極めた凄腕の国家一級魔法使いだよ。圧倒的な火力が強みで彼の炎に焼かれたら灰すら残らない、なんて言われてる。何でそんな規格外の魔法使いが料理対決なんかに……!?」
ティアレの感情が昂っているのだろう。彼女の小さな体からバチバチと密度の高い魔力が漏れ出ていた。
その瞬間、応接室の入り口で控えていた使用人たちの目が点になった。
「お、おい……なんだあれ。あの魔力、普通じゃないぞ」
「待て、あの帽子についてるアレ。代々高名な騎士を輩出している名門ナーヌ家の家紋では!?」
「ナーヌ家って一族全員が超一流の騎士だろう!?……そう言えば聞いたことあるぞ。一人だけ異常な数値の魔法適性を叩き出して国中の魔法学会を驚愕させた天才魔法使いの娘がいるって」
使用人たちの間で、驚愕の囁きが広がっていく。
「そんな、嘘だろ? 名門ナーヌ家の天才令嬢が、何故こんなところに!?」
「しかも見ろ、そんな規格外の令嬢が、主人の後ろに隠れる従者みたいにあの平民の男の後ろにくっついているぞ」
使用人たちの視線がティアレからその前に立つ俺へと一斉に集まった。
彼らの目に宿っていた軽蔑は完全に消え去っていた。
「……あの男、一体何ものなんだ?」
「ナーヌ家の天才令嬢を従えているなんて……どんな実力の持ち主だ?」
「その上でエルム様と対等に渡り合っているあの男……何者なんだ?」
「悪徳貴族に対抗するための裏社会の支配者かもしれないな。そうに違いない」
(待て待て待て……!? なんて目で俺のこと見てるんすか!?)
背中に突き刺さる使用人たちの視線に、俺は心の中で激しくツッコミを入れた。
しかし、アルダーは周囲の勘違いなど露知らず、重々しく告げた。
「相手のカエンボクは、圧倒的な火力の炎魔法を調理に使います。並の料理人、魔法使いではその豪快な火力に対抗することは不可能です」
俺はアルダーの方を見つめた。
「ユウト殿、何か秘策はあるのですか?」
カエンボクという最強の魔法使い、そして負ければ奴隷。この街にもいられなくなる絶望。俺は手を握り直した。
「まぁ……なんとかなるっすよ」
俺はあえて、いつもの業務用ポーカーフェイスを作ってそう言ってみせた。
コメント
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読んだわ!いやー、使用人がゴミを見るような目から一転して「この男何者だ!?」ってなる流れ、めっちゃ面白かった。ティアレの正体バレからの逆転劇、最高じゃん。主人公の「なんとかなるっすよ」で締めるクールさも痺れる。炎魔法使いとの料理対決、どうなるんだろう。続き気になりすぎる🔥