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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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次の日曜日、美月は亜矢子と横浜にランチに行く約束をしていた。

約束をしたのは、先日の朝亜矢子から電話を貰った後だ。

亜矢子がどうしても美月と海斗のその後の事を聞きたいと言うので、日曜日に会う事にした。


亜矢子の愛息子の亮は、育メン夫の浩が一日面倒を見てくれるらしい。

その日は実家に連れて行くとの事なので安心だ。

優しい浩は「美月ちゃんと二人で夜までゆっくりしておいで」と言ってくれたそうだ。

だから亜矢子は久しぶりに羽を伸ばせるのでご機嫌だ。

時間はたっぷりあるから、二人はショッピングもしようと盛り上がっている。


十時に駅で落ち合った二人は、電車で横浜へ向かった。


「美月! 今日は洗いざらい全部話してもらうわよ」


鼻息の荒い亜矢子を見て笑いながら美月は言う。


「それにしても浩さんは優しいよね。一日中遊んできていいよーなんて言ってくれるんだから! ほんと育メンだわ」

「それがさぁ、実は浩ったら沢田さんのバンドの隠れファンだったのよ! だから美月の話をしたら行ってこい行ってこいだっ

て!」

「そうなの? 今も?」

「ううん、ライブに行っていたのは独身の時だったみたい。だからさぁ、美月の話をしたら驚いてたよ」


亜矢子は楽しそうに言った。


そして電車は元町駅へ到着した。二人はすぐに商店街へ向かう。

亜矢子とこうして元町商店街をぶらぶらするのは久しぶりだった。

一部の店舗の入れ替わりはあるものの、商店街の雰囲気は昔とあまり変わらなかった。

「学生時代を思い出すねー」と話しながら二人は街歩きを楽しんだ。


その後中華街へ行き安くて美味しい中華料理に舌鼓を打つ。


食事をしながら、美月は亜矢子に急かされて海斗との現在までの状況を説明した。

ただし「海斗の腕の中で泣いた事」と「ブルーモーメントの出来事」は伏せておく。

亜矢子に話さなかった理由は、なんとなく胸の内に大切にしまっておきたかったからだ。


美月の話を聞いた亜矢子は、


「沢田さん、美月が溜め込んじゃう性格を治してくれるって言ったんだ。それは友達としてありがたい! 美月はいつもそう

だからねー。健太さんの時だって結局何も言い返さなかったし。もし私が美月だったらとことん追い詰めてやったのに……」


そう言ってから言い過ぎたと思ったのか、慌てて謝る。


「あ、ごめん…」


ここで亜矢子が言った「健太」というのは美月の元夫の事だった。

亜矢子が言いたかったのは、健太が美月と離婚する前に美月の同期の女性と不倫していた事についてだった。


「あれはもう過去の事だから気にしないで。それにあの時私が彼に何も言わなかったのは、今思えば彼に対する愛情がもう

既になくなっていたんだと思う。もし本当に愛してたらあんなに冷静ではいられなかったと思うし」


美月はそう言ってジャスミンティーを一口飲んだ。

そして続ける。


「私、思うんだよね。今まで本気で人を好きになった事がないのかもって。本気で人を好きになるってどんな感じなんだろう?

とかいい歳をして考えちゃう」


それを聞いた亜矢子が言った。


「本当に人を好きになったら、朝から晩まで相手の事を考えちゃうんだよ。そして会えるだけで嬉しいの。プレゼントがなんた

ら~とか、高級レストランがうんたら~とか、そういうのは一切関係なくなっちゃうんだよ。とにかく一緒の空気を吸えるだけ

で嬉しいんだよ、きっと」


その言葉には重みがあった。

愛情に溢れた家族を持つ亜矢子の言葉には説得力があった。

同じ年なのに亜矢子はしっかりしているなぁと美月は改めて思う。


そして美月は先日のブルーモーメントの出来事を思い出していた。

同じ場所にいなくても、同じ体験を共有出来ただけで幸せだった。

こういう感覚が、今亜矢子が言っていた事なのだろうか?

ふとそんな事を思いつつ、美月はデザートの杏仁豆腐を食べ始める。


食事を終えて店を出ると亜矢子が言った。


「占いだけちょこっと寄っていい?」


占い好きの亜矢子は中華街に来ると必ずと言っていいほど占いをしてもらう。


「時間は全然あるからいいよ。私はそこの雑貨屋さんを覗いているね」


美月はそう言って亜矢子と別れた。


それから美月は、中国茶用の陶器や雑貨が所狭しと並ぶ雑貨屋に入ってみる。

こういうう店を見るのは久しぶりだと思い、興味深げに端から見て行く。

すると美月の携帯の音が鳴った。海斗からメールが来たようだ。


【今日は何をしているの?】


何気ない質問のメールが届く。


あのブルーモーメントの出来事以降、

海斗からは時々こういった何気ないメールが送られて来るようになった。


普通の人はメッセージアプリを使ってこういう会話を気軽にやり取りするのだろう。

しかしアプリを使っていない美月へメールを送るには、普通のEmailを使わなくてはいけない。

だから送る側は面倒なはずだ。


美月も以前はメッセージアプリを使っていた。しかし離婚を機にやめた。

その理由は、昔の職場の知り合いと繋がっていると聞きたくもない情報が勝手に耳に入ってくる。

元夫の健太と不倫相手のその後の動向など知りたくもない。

だから美月は離婚を機に、当時の知り合いとの連絡を一切絶っていた。


だから今はメールしか使っていない。

それでも海斗はこうしてメールを送ってくれるのだ。


美月はすぐに返事を打ち込む。


【今日は友人と横浜へランチに来ています】

【横浜でランチってことは中華街?】


海斗からはすぐに返事が来た。


【はい。これから桜木町へ移動してショッピングです】


美月はそう返信する。

するとまたすぐに海斗から返信が来た。こんなに頻繁に返信が来るのは珍しい。


【桜木町に来るなら俺が出るイベントを見においでよ。場所は桜木町ロイヤルタワーで十五時から。お友達も是非一緒に!】


美月はびっくりした。なんという偶然なのだろう。二人とも今同じ横浜にいる。

それにイベント? 海斗のバンドの生演奏が聴けるのだろうか? そのメールを見た途端美月はソワソワし始める。


実は海斗のCDを聴いてから、もっと色々な曲を聞きたいと思っていた。

インターネットの動画投稿サイトで海斗のバンドの激しい曲を聞いたところ、美月はあっという間に魅了されてしまった。

そんなバンドの生演奏だなんて!

美月は興奮を抑えてこう返す。


【友人に聞いてみてOKが出たら顔を出しますね】

【了解。もし来たら入り口に立っている人に名前を言ってくれれば入れるようにしておくよ】


海斗からはそう返事が来た。

そこへ、占いを終えた亜矢子が戻ってきた。


「占い、どうだった?」

「まあまあいい感じだったよ。家庭運は絶好調!」


亜矢子はニコニコして答える。


「良かったね。亜矢子の家の家庭運が悪いわけないわ! ところでさぁ……」

「なになに?」

「あのさ、今海斗さんからメールが来て、桜木町でイベントに出るからお友達と来れば? って言われたんだけど…あ、でも亜

矢子が嫌なら無理して行かなくてもいいからね……」


美月が言い終わらないうちに亜矢子は、


「行くー!」


と叫び、さっさと駅の方へ歩き始めた。

そんな亜矢子を美月は慌てて後ろから追いかけた。

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