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そして二ヶ月後、この日は仁と綾子の結婚式だった。


綾子の体調は順調でつわりも収まり無事にこの日を迎える事が出来た。

今綾子はホテルのブライズルームで支度を終え先ほどまで家族と一緒にいた。

家族が教会へ向かうと今度は仁が悦子夫妻を連れて来てやって来た。悦子夫妻は昨夜からこのホテルに泊まっていたようだ。


「あらぁ、綾子さん綺麗ー! 初めまして! 仁の旧友の野中悦子です。こちらは夫の高太郎!」

「本日はおめでとうございます」

「初めまして綾子です。今日は遠い所までありがとうございます。ドラマの件でも色々とお世話になりました」

「どうでしたかドラマは? あんな感じで良かったかしら? 多少はスッキリしてもらえたかなぁ?」

「はい、バッチリです! 真実を全てドラマにしていただけたので嬉しかったです」

「それなら良かった。私も同じ女として許せなかったから徹底的に描写してみましたー」


そこで夫の高太郎が口を挟む。


「おいおい、おめでたい席でドラマの話はそれくらいにしたらどうだ?」


夫の高太郎が妻をたしなめる。


「あらー、だってあのドラマは二人を結び付けるきっかけにもなったキューピッドのようなものなのよー? だからいいじゃなーい」


そこで仁が口を挟む。


「まあ確かにあのドラマがきっかけで俺は【月夜のおしゃべり】に登録したんだから悦子の言う事も一理ある」

「でしょでしょ? それにあなたたちのお陰でドラマ大賞もいい線行きそうなんだからぁ! あ、そう言えば仁から聞いたんだけど綾子さん結構飲めるんですってね。出産が終わって落ち着いたら女同士で飲みに行きましょうよ」

「はい、是非」


綾子は笑顔で答える。

それから四人はしばらく談笑をした後、綾子以外の三人は先に教会へ向かう事にした。


「じゃあ綾子、後でな。ドレスに足を取られて転ぶんじゃないぞ」

「大丈夫よ、じゃあ後でね」


三人は部屋を後にした。


今日綾子は仁からプレゼントされたウェディングドレスを着ていた。

綾子のお腹はまだそれほど目立っていなかったが念の為胸の下から切り替えになっているゆったりしたAラインのドレスを選んだ。

可憐な花の刺繍が入った柔らかいラインのシフォンドレスは綾子にとてもよく似合っていた。元々白が似合う綾子がそのドレスを着るとまるで天使か妖精のような雰囲気だ。

綾子は鏡に映る自分のお腹の辺りを見て微笑む。そこには日に日に成長している命の重みがある。

我が子と一緒に結婚式を迎えた綾子は今とても大きな幸せの中にいた。



一方、一足先に教会へ到着した仁は教会の外にいるアクトに気付き声をかけた。


「アクト、今日はありがとうな」

「仁、おめでとう。おーっ、タキシードよく似合ってるぞ! お前もいよいよ妻帯者…いやそれを飛び越えてパパかぁ。なんか感慨深いよ。だってお前は一生結婚しないと思っていたからな―」

「ハハハ、俺だってびっくりだよ。でも今は生まれて来る子供の事で頭がいっぱいなんだ。生まれる前から嬉しくってさ」

「やっぱりな、俺の思った通りだ。お前みたいな奴が意外と子煩悩になるんだよなぁ」

「自分でもそう思うよ」


そこで二人は声を出して笑う。


「それよりもお前の方はどうなった?『ミルクティー』だっけ? その後メル友とはどうなんだよ」

「そんなのもうとっくに切れてるさ。その代わり今は年上のメル友とイイ感じなんだよ」

「年上? お前は若い子の方が好きじゃなかったか? それに年上って一体いくつ上なんだ?」

「13」

「ハッ、13? そんなに離れてるのか? 大丈夫かお前? なんか騙されてないか? 身元はしっかりしてそうなのか? 何をやってる人なんだ?」

「仕事は人材派遣会社の管理職をしているらしいよ。会社名は知らないけど話していると本当にその仕事をしてるんだろうなーってのがわかるから嘘じゃないと思うよ」


『人材派遣会社の管理職』と聞いた仁はハッとする。


(まさか……)


「でさー、驚いた事に彼女も今日軽井沢で親戚の結婚式に出るんだって。なぁ? 軽井沢は式場っていっぱいあるんだよな? 場所がわかれば会いに行けるのにな―」

「ちょっ、ちょっとお前マジでその女性と仲良くなりたいと思ってる訳? 13歳上って事は58歳だぞ? それは友達として付き合いたいのかそれとも恋愛対象なのか? どっちだ?」

「うん、彼女と話していて思ったんだけどなんか俺には年上の方が向いているような気がしてきてさぁ。今までは若い女性達とばかり付き合ってきたけれど誰とも長続きしなかったろう? それって結局そういう事なのかなーって思ってさ」

「……って事はガチなんだな? 付き合ってもいいって思ってるんだな?」

「うん。それに彼女とはもうテレビ電話で話をしているからお互いの顔も知ってるしね」

「顔もタイプだったって事?」

「そう。58には全然見えない色っぽい感じでどストライクよー! でも見た目だけじゃないんだよ。一番最高だなって思ったのは趣味が一緒だって事!」

「趣味ってアイドルの方じゃなくて宇宙の方か?」

「そうそう、彼女もかなりの宇宙オタクでまぁ話が盛り上がる盛り上がる!」


その時仁は確信した。アクトのメル友は綾子の叔母の『たまき』だという事に。

そしてこういう場合はどうしたらいいのかと頭を悩ませる。


その時仁を呼ぶ声が聞こえた。


「仁ちゃん、久しぶりー! キャーッ、馬子にも衣装ねぇ良く似合ってるじゃない」


たまきがケラケラと笑いながらこちらへ向かって来る。


(まずい……対面しちまうぞ)


しかし二人はまだ気付いていないようだ。


「グレーのタキシードにして正解ねー! 品があるわぁ」

「たまきさんどーも!」


仁はたまきに挨拶をした後覚悟を決めた。


「アクト、こちらは綾子の叔母さんのたまきさん。たまきさん、こちらは俺の友人で作家の香坂アクトです。香坂アクトって知ってるかな? SF小説作家なんだけど」


そこでアクトが挨拶をする。


「どうも、香坂アクトで………」


そこで正面からたまきを見たアクトはびっくりして言葉を失う。

一方たまきの方も口をぽかんと開けて固まっていた。


「あ、あわわ……あなたはもしや……アンドロメダさんっ?」

「プッ、プレアデスさんっ? なんでここに?」

「アンドロメダさんこそなぜここに?」


仁はニヤッと笑うとあとは二人に任せてその場を後にした。



その頃綾子はリムジンで教会へ移動していた。

車が教会に到着しドレスに身を包んだ綾子が車から降りて来ると参列者達から一斉にため息が漏れる。

綾子はとても美しかった。


「綾子、凄く綺麗よー」


すぐ傍から優美子の声が聞こえたので綾子は振り向いて微笑む。優美子は夫と共に参列していた。

すると今度は聞き覚えのある声が響いた。


「内野さんすっごく綺麗よー! ちょっと写真撮らせね、工場のみんなに見せなくちゃ!」


綾子が反対側を振り向くと、おめかしをした光江がスマホを構えて写真を撮った。


「光江さん、今日はありがとうございます」

「こちらこそこんな凄い結婚式に呼んでもらって光栄だよ! 冥土の土産がまた増えちゃったわー。それに内野さんおめでたなんだって? 良かったねー、くれぐれも体調に気を付けて無理しないようにね」

「ありがとうございます」


綾子は久しぶりに見る光江の温かな笑顔にホッとする。


その時教会のスタッフが来て叫んだ。


「ではご参列の方はそろそろ教会の中へお入り下さい」


その声を合図に参列者達がぞろぞろと中へ入って行く。


最後に残った綾子の元へ仁が来て言った。


「それにしてもなんて美しいんだ綾子、まるで『エンジェル』のようじゃないか!」

「フフッ、だって『エンジェル』だったんだもん」

「ハハッそうだったな。今日は『エンジェル』と『God』が結ばれる記念すべき日だな」

「うん」


綾子は微笑んで頷く。


仁は感無量だった。あの日軽井沢で初めて綾子を見た時から仁は決めていた。

綾子を妻に迎えようと。

それが今こうして現実になった事に胸がいっぱいになる。


(俺は前の旦那のようにはならないからな。綾子と子供を全力で守るからな……)


仁は心の中で呟くと感慨深げに綾子を見つめる。


その時教会のスタッフが神父を連れて来て二人に紹介した。


「神父の前川です。本日はおめでとうございます。お天気も晴れて良かったですね」


声をかけられた二人は前川を見て驚く。その顔には見覚えがあった。


「あなたは…確かクリスマスイブの日に写真を撮って下さった?」

「はい、よく覚えていますよ。あの時の素敵なカップルがうちの教会で式を挙げて下さると知りとても嬉しかったです」


前川神父はニコニコしながら二人を見つめた。


「やっぱり……その節はありがとうございました。本日はよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

「素敵な式にしましょう。リラックスしてね。では新郎は私と一緒に……」

「じゃあ綾子、後でな」

「うん」


そこへ綾子の父親がやって来た。父の顔はどことなく強張っている。


「お父さん緊張してるでしょう?」

「なあに、二度目だから慣れたもんさ」

「あっ、酷い! 嫌味言われちゃった」


綾子はクスクスと笑う。


「まああれだ、一度失敗を経験していたら二度目はきっと上手くいくさ。だから心配するな。しっかり仁君といい家庭を作りなさい」

「お父さん……ありがとう」


綾子は涙が出そうになったが挙式前なのでぐっとこらえる。

その時スタッフが二人の前に来て言った。


「では今から入場していただきます。お二人で一礼をしてから前へお進み下さい」


そして教会の扉がバーンと開いた。



室内にはパイプオルガンの美しい音色が響いている。歴史ある教会には厳かな雰囲気が漂っていた。

二人は一歩前に進んでから一礼をするとバージンロードを歩き始めた。

途中優美子や光江の「綺麗よー」「おめでとう」という声が聞こえてくる。

教会に許可を得た週刊四季のカメラマンが式の様子を撮影していた。


祭壇の前に辿り着くと父は綾子の手を仁に託し参列者の席へ戻って行った。


手を握り合った瞬間二人は見つめ合い微笑む。そして厳かに祭壇の前に進んで行った。


教会の外では盛大な鐘の音が鳴り響いていた。



<了>

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コメント

29

ユーザー

瑠璃マリコ先生 大好きな作品で再度読ませていただきました🌷 ありがとうございます🌼

ユーザー

マリコさん、今日も一気読みさせて頂きました😊 何度読んでも良いお話ですね💕 これからも何度も読みたいと思うお話でした🥰 ありがとうございました!!

ユーザー

マリコ様の『天使のbreath』をもう一度読みたくて、こちらのサイトに訪問しました。何回読んでも幸せをもらえます😀

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