メリークリスマス!
今日はクリスマスプレゼント代わりに以前特典で書いたショートストーリーをこちらにアップさせていただきます🎵
(一度読んでいる方は…ごめんなさい💦)
それでは皆様、素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ🎵 瑠璃マリコ
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それから5ヶ月後、仁は産婦人科の分娩室にいた。
「綾子っ、頑張れ! 俺がついてる」
「う……うん、フーーッ、ヒッヒッフーーッ」
「神谷さん、赤ちゃんの頭が見えているからもう少しですよっ、頑張って」
「綾子っ、頑張れーっ」
「うぅ――――っんっっ……」
オギャアッ オギャアッ オギャーーーーッ
「ハッ……やった? やったぞ……」
「神谷さん生まれましたよ、元気な男の子です」
「綾子っ、やったぞーでかしたーっ、よく頑張ったーっ」
仁はうっすらと涙が浮かべながら綾子の頭を撫でる。それに応えるように綾子が泣きながら微笑んだ。
すると助産師が言った。
「ご主人、赤ちゃんが産湯に浸かる所をご覧になりますか?」
「もちろんっ」
仁は赤ちゃんと共に奥の部屋へ移動した。
その時綾子は天井をじっと見つめながら心の中でこう呟いた。
(理人、私の元へ帰って来てくれたのね……)
綾子の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちてきた。その瞬間耳元に小さな吐息を感じた。
びっくりした綾子は慌てて辺りを見回したが傍には誰もいない。
綾子は理人が来てくれたのだと思い、涙で頬を濡らしながら天井に向かって精一杯微笑む。
しばらくすると仁が赤ちゃんを抱いて戻って来た。初めての抱っこにしてはなかなか上出来だ。
「綾子、見ろー、俺に似てなかなかのハンサム君だぞ」
その言葉に助産師と新人の看護師たちがクスクスと笑う。
「生まれてすぐは浮腫んでいるからハンサムかどうかわからないでしょう?」
「いーや、この子は間違いなくハンサムだから絶対プレイボーイになるぞー。いやー父ちゃんは色々と教育しないといけないから大変だなー」
仁の言葉に綾子はクスクスと笑い出す。
「そんな事よりも先に名前を考えなきゃ」
「ああ、わかってる。もう候補はいくつか考えてあるよ。だから後で相談しよう」
「うん」
「それにしても頑張ったな、綾子。ありがとう、君は最高の奥さんだ」
「フフッ…あなたも最高の夫よ」
そこで助産師が口を挟む。
「神谷さん、そこでチューはしないで下さいよー、研修中の若い看護師もいるんですからねー」
「そんなつれない事言わないで下さいよー、俺達は今ここで夫婦の歴史上最高にドラマティックな1ページを紡いでいるんだからさー」
「もうしょーがないわねぇ、じゃあ一回だけですよ」
「さすが話がわかるねぇ、じゃあ綾子、許可をいただいたからいくぞっ」
チュッ♡
「「「きゃーーーーっ♡」」」
分娩室には賑やかな声が溢れていた。
喜びに包まれた雰囲気の中、生まれたばかりの小さな天使は目を瞑ったままニッコリと微笑んだ。
____それから2ヶ月後____
「聖人(まさと)くーん、おむつ濡れちゃいまちたねー、パパが替えてあげまちゅよー♡」
「ダァッ、ダァッ」
聖人は満面の笑みで仁に両手を差し出す。
「おむつは私が替えるわ。それよりもそろそろ行かないと授賞式に遅れちゃうわよ」
綾子は心配そうに言った。
「大丈夫でちゅよー♡ パパのおむつ替えはプロ級であっという間に終わっちゃいまちゅからねー♡」
「フフッ、もうしょうがないんだからぁ」
思わず綾子が笑う。
「ほーら、おちり綺麗になりまちたねー♡ 聖人くん気持ちいいになりまちたー♡」
仁は手際よく取り換えると使用済みのおむつをクルクルッと丸めて蓋つきのゴミ箱にポイと捨てた。
「パパは私よりも手際がいいわ」
「ハッハー、新生児の頃からやってりゃあこんなの朝飯前だぜー」
「聖人はママよりもパパに世話してもらっている方が多いんじゃない?」
綾子はそう言いながら聖人を抱き上げた。
仁は洗面所で手を洗うとスーツの上着を着てコートを手にした。
「じゃあ行って来るよ」
「悦子さんによろしくね」
「おうっ」
仁は玄関まで見送りに来た綾子と聖人の頬にそれぞれチュッとキスをすると、手を振りながら玄関を後にした。
今日はドラマ大賞の授賞式の日だった。
仁が原作を担当した『天使のbreath』は見事ドラマ大賞を受賞した。
テレビ業界に入ってからずっと目標にしていた『ドラマ大賞』をついに手にした悦子は今すっかり腑抜けている。
長年のライバルだった松崎隼人も勝手に自滅して姿を消してしまったので、他に張り合う相手もいなくなり最近の悦子はすっかり毒が抜けていた。
仁は今日そんな悦子に喝を入れるつもりでいた。
(俺はまだまだドラマの仕事をやるからなー)
仁はタクシーの中でそう意気込んでいた。
その頃綾子はうとうとし始めた聖人をベビーベッドに寝かせると、傍のソファーでやりかけの刺繡を始める。
最近育児にも少し余裕が出てきたので、綾子は刺繍を再開していた。
実は今綾子は少し悩んでいた。悩みは聖人の事だ。
聖人が生まれてから、綾子は聖人は理人の生まれ変わりだとずっと信じていた。
しかしその考えが果たして聖人の為になるのだろうかと最近悩んでいる。
綾子が悩むようになったきっかけは、成長と共に現れ始めた聖人の個性が理人とは正反対だったからだ。そして性格だけでなく聖人は理人とは全く違う行動をするという事に気付いたのだ。
小さい頃の理人はおとなしくて手がかからない子だったが、聖人は理人とは正反対で常に声を出しながら元気に動いている。
それに何といっても聖人は仁によく似ていた。具体的にどこがどうとはまだ言えないが、明らかに仁にそっくりだった。
そこで綾子は窓辺に飾ってあるフォトフレームを手にすると理人の写真を見つめる。
フォトフレームの片隅には小さな鳥の羽根が二枚挟まっていた。
「ねぇ理人、やっぱり聖人を理人だと思う事は可哀想かもしれないわ。聖人はあなたの弟なんだもの……そう思わない?」
その時理人の写真が少し微笑んだように見えた。
ここ最近、綾子は聖人が理人の生まれ変わりだと思う事に罪悪感を感じていた。二人は別人格なのだ。だから本来ならば別々の人間として見てあげる必要がある。
もちろん綾子も心の中ではわかっていた。でもそれを認めてしまうと理人の記憶がどんどん消えてしまうような気がして辛かった。
そして色々と考え過ぎるあまり綾子は聖人とどう向き合っていいのかわからなくなっていた。
綾子はフーッとため息をつくと、再びソファーに戻って刺繍の続きを始める。
その頃、授賞式を終えた仁は悦子と居酒屋にいた。
「子育ては順調そうね。夫婦仲もばっちりだし、もう何も心配する事なんてないんじゃないの?」
「うん、まあそうなんだけどさぁ、最近綾子の様子がおかしいんだよ」
「おかしいってどんな風に?」
「なんか元気がないんだよなー、理人の写真を見てため息をついたりしてさー」
「何それ。だったらはっきり聞けばいいじゃん」
「うん、でも育児書に書いてあったんだけどさ、出産後の女性はホルモンバランスが乱れがちで鬱になる人もいるんだってさ。だから接し方には充分注意するようにって書いてあるからよー、どうしたらいいのかわかんねーよ」
「ハァッ? あんたがそんなんでどうすんの? しっかり嫁の心のケアをしてあげないとー」
「それはそうなんだけどさぁ」
「で? 綾子さんはなんか言ってなかったの? 何かヒントになるような事を」
「うーん特には……あっ」
「何よ、なんかあるの?」
「そういや前に言ってたな。聖人に理人の思い出ばかりを重ねたら可哀想かなって」
「ふーん、なるほど……」
「なんだ? それだけで何かわかるのか?」
「フフッ、そんなの簡単じゃない。綾子さんは聖人君が理人君の生まれ変わりだと思ってた。でも成長していく聖人君を見ているうちに別人格な事に気付く。そして聖人君に理人君を重ねている自分が許せなくなる。つまり聖人君を理人君の身代わりみたいに思っている自分を責めてるんじゃないの?」
「お前凄いなー。あんだけのヒントでそこまでわかるのかー、女ってすげーなー」
「そりゃああたしも一応女の端くれだもの」
「そうかー、それで悩んでたのか」
「じゃない? でももうそろそろ理人君の事は思い出の1ページにしてもいいんじゃないの? もちろん忘れる必要なんてないしこれからも大切な家族の一員には変わりないんだからさ。綾子さんが堂々と胸を張って聖人君と向き合えるようにあんたがしてやらないとー」
「そうだな……気づいてやれなかった俺のミスだな。綾子、辛かっただろうな……」
「うん、でもあんた達なら大丈夫だよ」
「ああ…」
悦子に喝を入れるつもりで行ったのに、仁は逆に悦子に勇気づけられて家路についた。
時刻は午後10時を回っていた。
仁は聖人を起こさないように自分で鍵を開けて中に入る。そして仁がリビングへ行った時、綾子が慌てて目を拭うのが見えた。
綾子は窓辺にある理人の写真の前に立っていた。
「おかえりなさい」
「ただいま。遅くなってごめんな」
「ううん、悦子さんとは久しぶりだったんでしょう? 授賞式はどうだった?」
「無事に終わったよ。悦子は長年の夢が叶って感動してたよ」
「良かったわね。あ、何か飲む?」
「いや、大丈夫だ。聖人は?」
「ぐっすり眠っているわ」
仁はコートと上着を脱ぐと椅子に掛ける。そして綾子の傍まで行くと綾子を後ろから抱き締めた。
「綾子……ごめんな、気付いてやれなくて」
「え?」
「理人と聖人の事で悩んでたんだろう? 聖人は理人の生まれ変わりなんだって思いたい気持ちとそうじゃないっていう気持ちと……その二つの間で辛かったんじゃないか?」
綾子はびっくりして仁を振り返る。その瞳には涙が滲んでいた。
「なんでわかったの?」
「ハハッ、俺は『God』だからなー」
「フフッ、まだ言ってる」
そして綾子は涙を拭うと言った。
「理人と聖人は全く個性が違うの。今までは聖人の事を理人の生まれ変わりだと信じてた。でもそれは違うって気付いちゃったのよ。だからこのまま聖人の事を理人の生まれ変わりだと思い続けていたら聖人が可哀想な気がして。でも理人の事は忘れたくないし……だから自分でもどうしていいかわからなくなっちゃったの。多分産後のホルモンの乱れが影響しているような気がするけど、一度落ち込むとなかなか抜けられなくて……」
「綾子、正直に話してくれてありがとう。俺もすぐに気付いてやれなくてごめんな。でもさ、こういう時はこうあるべきってきっちり決めなくてもいいんじゃないか? そうじゃなくてもっとシンプルに自然に……理人は理人、聖人は聖人ってさ。二人共俺達の大切な息子だし二人が兄弟である事に変わりはないんだから」
思いやりに溢れた仁の言葉を聞いて綾子が泣き出す。
「うん……」
「俺は理人の事を決して忘れないから。だから大丈夫だ、安心しろ」
「うぅっ……うん…そうね、あなたも覚えていてくれるのならきっと大丈夫ね」
「そうだ、心配するな…絶対に忘れないから」
そこで仁は肩を震わせて泣いている妻をギュッと力強く抱き締めた。
____それから7年後_____
「聖人、理子、早く支度しろよーっ」
「パパ―待ってー!」
「理子もいくーっ!」
仁と綾子の長男・聖人は7歳になっていた。そして聖人には妹が出来ていた。
妹の理子は兄の後を慌てて追いかける。
二人はこれから父親と映画を観に行くようだ。
「じゃあママ行ってくるねー」
「ママも楽しんで来てねー」
「行ってらっしゃい! パパと映画楽しんで来てね」
「じゃ綾子、行って来るよ、チュッ♡」
「パパとママまたキスしてるぅー」
娘の理子が笑いながらおませな口調で言った。
「行ってらっしゃい」
綾子は三人を送り出すと慌てて出掛ける準備を始めた。
その時綾子のスマホにメッセージが届く。メッセージは優美子からだった。
【綾子ごめーん、賢太郎がおもらししちゃったから待ち合わせ15分遅らせて―!】
今日綾子は優美子とランチの約束をしていた。
賢太郎は優美子が高齢で授かった長男だった。
優美子からのメールを見た綾子はフフッと笑いながら【了解】と返事を送った。
その時、窓辺に飾ってある理人の写真がニッコリと微笑んだように見えた。
<了>
コメント
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クリスマスにインフンで…こんな素敵なクリスマスプレゼントがあった事に今頃気づきました。 この作品、大好きなので嬉しいです ありがとうございました。
瑠璃マリ先生、 素敵なプレゼント👼 ありがとうございます🎁✨ 久し振りに仁さまの優しい夫&デレデレ甘々なパパぶりが見られて嬉しかったです😎💕 ウンウン....(*-ω-)♡ 理人くんは 理人くん👼 聖人くんは 聖人くん👦 理子ちゃんは 理子ちゃん👧 ....ですね✨ 皆、パパ仁さん&ママ綾子さんの大切な子供たち💖 仲良し家族、いつでもお幸せに🍀
皆様♪ 完結しているにも関わらず再び読みに来て下さりありがとうございますm(__)m✨メリークリスマス(^^)/🎄🎅🎁✨🌠