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食事を終え、恵菜が個室で会計の準備をしているのを見た純は、財布からお金を出そうとしている手を制した。
「相沢さん。今日は俺が誘ったので、ここは俺が……」
純も財布を引っ張り出すと、恵菜は、しっかりとした眼差しを彼に向けた。
「いえ。ここは私に支払いをさせて下さい。元夫に手を上げられそうになり、助けてくれたのは、他でもない谷岡さんです。それに……」
恵菜は照れながら、頬を薄紅に染める。
「あの時、谷岡さんがいなかったらって思うと…………ゾッとするし、谷岡さんにお礼をしたいなって……思ってたんです。なので、ここは私が」
凛とした彼女の声音が、ここは私がご馳走をする、と決めているようで、純は恵菜の気持ちを尊重した。
「分かりました。では今回はありがたく相沢さんにご馳走になります。その代わり、と言ってはアレですが……」
純は俯きながら小さく息をつくと、顔を上げ、恵菜と視線を交える。
「俺と相沢さんの誕生日の四月二日。平日ですが…………一緒に……お祝いしませんか?」
純は唐突すぎたか、と思い直したが、好きになった女が自分と同じ誕生日と知り、気持ちは更に昂った。
「…………いいんですか? 谷岡さん、彼女がいるのでは?」
「いや、彼女はいません」
純はキッパリと即答すると、恵菜はホッとしているのか、表情を緩めた。
「相沢さんの方こそ、実は彼がいたりするのでは?」
「いませんよ。離婚して、まだ半年も経ってないし……恋愛は…………」
恵菜が言葉を濁して黙り込み、コーヒーカップに視線を移す。
(何だ? 彼女は何を言おうとしていたんだ?)
いい雰囲気で話が盛り上がったのに、ここでシュンと盛り下がるのは、非常にマズい。
「まぁ……同じ誕生日同士、楽しくお祝いしませんか?」
純が停滞している空気を振り払うように、明るく声を掛けた。
「じゃあ…………谷岡さんが良ければ……」
彼女が、ようやく前向きな答えを出してくれて、彼はヨシッ! と内心ニンマリする。
(今はまだ一月。二人の誕生日までに…………相沢さんと……カレカノになって……誕生日は、恋人として過ごしたい……!)
恋愛に関する目標ができた純は、これから恵菜にアプローチしていく事を決意。
会計を済ませた恵菜と、ホテルのロビーを歩きながら、彼女との未来に想いを馳せる純だった。