コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
中央線に乗り、西国分寺で純と別れた恵菜は、自宅までの道のりを、のんびりと歩いていた。
「…………楽しかったなぁ……」
誰もいない住宅街の狭い路地で、ポツリと零す恵菜。
男の人と二人きりで食事をしたのは、いつ以来だろう?
かつての夫、早瀬勇人と結婚したばかりの頃、ホテルでディナーを楽しんで以降、記憶にない。
純から食事の誘いがあった時は、嬉しい気持ちが大きかったけど、いいな、と好意を寄せている純に、深入りしてしまいそう、というのも少なからずあった。
離婚して数ヶ月。
当分の間、恋愛はいいや、と思っている。
過去に負った痛手から、一歩踏み出す勇気が持てない。
歩き出せたとしても、人を好きになり、恋にズブズブと嵌(は)まっていく自分が怖い。
(谷岡さん、待ち合わせ直前に、女の人と楽しそうに喋ってたし、女性の友人も多そうだよね。外見も、スポーツマンタイプのイケメンだし……)
仮に、純と恋愛関係になっても、また自分が浮気され、辛い思いをするのではないか、と勘繰ってしまう。
(早瀬と谷岡さんは、全然違う人、というのは、もちろん分かっているんだけどね…………)
レストランに着いたばかりの頃、数日前に助けてもらったお礼をした後、黙々と食事をしていた純と恵菜。
親友、奈美の結婚式と披露宴の話題になった時、場の空気が和み、純の年齢と誕生日の話に移った頃には、いちばんいい雰囲気で会話ができたと思う。
自分と同じ誕生日の人に遭遇したのは、純が初めてだ。
職場でもあるファクトリーズカフェで、挨拶を交わすだけの彼だったけど、一気に距離が近付いた気がする。
純の気さくな部分と、たまに見せるオーバーリアクション気味の話し方。
自分がバツイチである事も、離婚の原因も打ち明けてしまった。
さらに、互いの誕生日でもある四月二日に、一緒に誕生日を祝おう、まで言われている。
多分、彼は人とのコミュニケーションを取るのが、すごく上手な人なのかもしれない。
「あれ……もう家に着いちゃった……」
自宅までの道のりで、様々な思考を巡らせているうちに、恵菜は自宅前にいて我に返る。
門を通り抜け、小さく苦笑いをした後、玄関のドアを開けた。