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「……おやすみ、アルベルト。」
その夜、私はテントの中でアルベルトの本に毛布をかけランプの明かりを消した。
そしてアルベルトと同じ毛布に
くるまり瞼を閉じる。本来ならここから
数秒で意識が重くなり睡魔に流されて
眠りにつくのだが、
今夜はそうはいかなかった。
「眠れない…。」
…アルベルト、なんとかならないかな。
右に寝返ってアルベルトの本を見つめる。
彼のいる本は反応がなく、
どこか悲しそうだった。
アルベルトは現れてからずっと私にべったりだった。ご主人様、と呼んではすりよってきて、
褒めて褒めてと言いながら突進された時は
何回吹き飛ばされたか数えきれない。
また、彼は風水師の私をとても褒めてくれた。
パラディン(ジャック)やユリア(賢者)みたいに安定した戦い方ができない自分を
自信を持ってください、といつもそばで励ましてくれた。
優しくて、強くて、穏やかで
もちろん、ジャックが言っていたように怖い一面もあったけど、
その一面がわたしたちを守るために見せたものだと気づくのにそんなに時間はかからなかった。
「…どうしよう。」
もし、今この瞬間、
法律も何もなくなって魔王のことも考えなくていいと言われたら、
自分はアルベルトとジャックとユリアとで仲良くワイワイ言いながら暮らしたい。
…パンを焼いて、みんなでそれぞれの食べ物を持ち合って、魔法で仕事を引き受けながら吟遊詩人の話でもして…
そんな和やかな日々を、
アルベルトと一緒に送りたい。
それでアルベルトが幸せになってくれたら、
私も安心できる…。
しばらくの間、私はそうやって自分が満足するためだけの妄想をかきたてていた。
すると、時間が経つにつれどんどん目が冴えていき、一時間ほど経ったときには全く眠気がこなくなってしまった。
「…いけないな、そろそろ寝ないと。」
そう呟いたその時だった。
「ルナ、起きてるか?」
扉の奥でサイラス王子の声がした。
「どうしたんですか?こんな時間に…」
「ちょっと眠れなくてな、星空を見に来た
…すまないな、俺が泊まることになったばかりにお前だけ野宿することになってしまって…」
「私のことは気にしないでください、何か淹れましょうか?」
パチ、と炭が割れる音がする。サイラス王子が焦げた木の枝を踏んだのだろうか。
サイラス王子は薄い上着を羽織って、私の視線に気づかないまま星を見上げていた。
彼の綺麗な赤い瞳に星の光が写って、
宝石のように暗い青が真紅の中に閉じ込められている。
「暑くないか?真夏の夜にテントはしんどいだろう。」
「氷枕がありますから平気ですよ。」
「本当か?しんどくなったらすぐに宿に戻るんだぞ。あと賊が出た時もすぐ戻れ、いいな?」
「はい、お気遣いありがとうございます。」
…私のことは気にしないでって言ったばかりなのに。優しいなぁ。
そう思い、私はサイラス王子のそばに立った。
「星、綺麗ですね。吸い込まれてしまいそうです。」
「そうだな。こんな静かな夜に1人で星を見ると、自然の美しさと偉大さを感じる」
「そうですね。
…でも、私の場合、すぐ寂しい気持ちになっちゃうかもしれません」
「?、寂しい?」
「はい、みんながいる方が、落ち着いて安心できますから、どんなに綺麗な世界でも、ひとりぼっちだと、私は辛いです」
「…そうか。」
私の話を聞いたサイラス王子はしばらく
黙り込んだ。何かを考えている様子だった。
「ルナは、誰かと一緒にいる方が楽しいのか。」
「はい。」
「じゃあ…今は、その…楽しいか?」
「?、はい。サイラス王子とお話しできるなんて稀ですからね、緊張してる反面、すっごく嬉しくて楽しいですよ。」
そう返すと、彼は少しの間、こちらを見つめるとそうか、とため息まじりに言った。
それを見た私はあ、緊張してるって言ったのまずかったかな?と素直すぎた自分を恨んだ。
すると彼は、突然しゃがみ込み、ルナ、と細い声で私の名前を呼ぶ。
「?、どうしたんですか?足でも痛めましたか?」
「いや、そうではない。」
「?」
「…その…えっと…
ぐ、いや…………、やはり、
ここで言ってしまおう
…ルナ。」
次の瞬間、しゃがみこんでいたサイラス王子が片膝をついた。
「俺と結婚してくれないか?」
「えっ…?」
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