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図書室の静かな午後、日差しは窓から柔らかく差し込み、棚の影を長く伸ばしていた。
凛は窓際の席に背を向け、厚い本のページをめくっている。無言で、まるでそこに存在しないかのように。
晴人はその隣の机に座り、資料を整理していたが、どうしても凛の動きが目に入る。
「……また、その席ですか?」
思わず口を開く晴人に、凛はちらりと視線を向ける。
「……そうだ」
短い答えには鋭さがあり、言葉以上の圧力が含まれていた。
晴人は軽く息を吐き、胸の奥がざわつくのを感じる。
ページをめくる凛の手元、時折視線を逸らすその仕草に、晴人の意識は引きずり込まれる。
言葉は少なく、動作は静か。だが、その無言の存在感が、心理的にじわじわと晴人を侵食していく。
「……これは、どう整理すれば……」
晴人が質問をすると、凛は顔を上げずにわずかに指先を動かすだけで答えを示す。
「自分で考えろ」
その冷たい一言に、晴人は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
無理に反発しようとしても、凛の無言の圧力は、理性を押し戻すように効いてくる。
沈黙が支配する空間で、二人の心理戦は密かに進む。
晴人がページに目を落としても、視線の端で凛の動きを追わずにはいられない。
凛はわずかな指先の動きや、ページのめくり方だけで、晴人の心の揺れを探り、微妙に支配していく。
「……そろそろ終わりにしますか?」
晴人が小さな声で告げる。
凛は一瞬視線を晴人に向けるが、すぐに窓の外に目をやる。
「……そうだな」
答えは短く、無言の圧力は変わらない。
だがその一言で、晴人は自分がじりじりと侵食されていることを痛感した。
ページを閉じる音、椅子のきしみ、窓の外の風の揺れ――
些細な物音さえも、二人の間の心理的緊張を増幅させる。
無言で交わす視線と微細な仕草だけで、支配と依存の空気が確実に積み重なっていくのを、晴人は感じずにはいられなかった。
放課後の光が傾き、図書室はさらに静寂を増す。
二人の間には言葉以上の繋がりがあり、目に見えない心理的な鎖が絡みついていた。
凛の無口さと冷徹さが、晴人の真面目な心をじわじわと支配する――
そんな午後が、終わりを告げるベルの音まで、続いていった。