テラーノベル
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夜行列車の揺れに合わせて、窓の外の景色が淡く流れる。
蒼は座席に深く腰を下ろし、外をじっと見つめている。言葉はほとんど発しない。
陽向は向かいの席から、窓に映る蒼の横顔をちらりと見ては、にやりと笑う。
「ねえ、眠くないの?」
陽向の声は軽く、無邪気だ。
「……眠くない」
蒼は短く答えるだけ。だがその冷たい響きが、陽向には絶妙な緊張を生む。
陽向は膝に置いたカバンから本を取り出すふりをして、蒼に近づける。
「ほら、これ、読んでみる?」
蒼は手を伸ばさずに、ちらりと視線だけで陽向を捉える。
「……いらない」
その一言で、陽向は思わず顔を赤らめ、でも笑いをこらえる。
揺れる車内、二人だけの密室。
陽向の無邪気な仕草が、蒼の静かな圧を引き出し、微妙な心理戦が始まる。
陽向がわざと大きな声でページをめくると、蒼はちらりと目を細める。
何も言わず、無言の圧力だけで陽向を牽制する。
「ねえ、なんでそんなに無口なの?」
陽向は顔を近づけて尋ねる。
「……聞かなくていい」
蒼の声は低く、冷たく、しかしどこか含みを持たせている。
陽向はその声に胸をざわつかせ、無邪気に見せかけた笑顔の奥で心臓が速まる。
車内の光、揺れ、微かな金属音――
些細な物音さえも、二人の間の心理的な緊張を増幅させる。
陽向は無邪気に振る舞うほど、蒼の静かな支配力に侵食されることを感じる。
そして蒼もまた、陽向の無防備な笑みや動きに、理性を乱されることを自覚していた。
列車がトンネルを抜けるたびに、二人の心は微妙に揺れる。
無言のまま、視線と距離だけで互いを試し合う――
そんな夜行列車の時間が、明けるまで続くことを二人は知っていた。
そして、沈黙の中で交錯する心は、言葉以上に深く互いを侵食していくのだった。
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