まさかのことに驚く凛。
春海は更に話を続ける。
「祖母はエドワードと結婚する前、日本人の男性と結婚していたんです。名前は春海久雄。私にとっては祖父ですね。ですが私は祖父の記憶はほとんどありません。写真で見たことがあるといったほどです。実は祖父は第二次世界大戦にて亡くなったんです。その頃は26歳ほどだったと聞いたことがあります」
「戦争で…」
「ええ。出征前、祖母は彼との間に一人の子供を生みました。名は孝宏。私の父です。いわゆるハーフ。私は世間的にはクォーターというのでしょうかね。その後、私の母・緑と結婚し私を生みました。しかし、私を生んで約2年後に離婚したのです。父は賭け事が好きで競馬やボートレース。パチンコ、スロット。新婚旅行先でもカジノへ行き、大負けしたそうです。そんな父に呆れた母は離婚を提案した。しかし、父は反対したそうです。当時、父は働いていたそうですが賭博にハマって以降、業績が悪く、いつクビにされてもおかしくなかったと。当然ですが、育児で忙しい母は育休中。お金がないんです。ということは賭博する金が無い。きっと借金することは嫌だったのでしょう。子供もいますからね。だからといって父は最低です。賭博ができないから離婚はしたくない。そんな人は誰がどう見ても最低ですね。そしてその後、離婚が成立。ですが母にとってそれはとても不利になります。お金がないんです。自身の両親から少し借りつつ借金もしてたそうです。まあお金が無いですからね。それから母は鬱になってしまう。自分の気分が悪いとすぐに私に手を出しました。そして4歳。幼いながらも私は家を飛び出した。逃げる術はそれしかなかったんです。その後、私は児相に保護されました」
「児相…?」凛が訊いた。
「児童相談所の略です。主に、虐待などを受けている子供を保護するところです。私はそこで一時保護になったんです。両親とは連絡が取れたものの支離滅裂。私はその後児相にて暫くの間生活することになったんです。まあ知らない人だらけで少し怖かったですが自宅よりは幾分マシでした。それから数カ月後、私は養護施設へ送られました。それからは養護施設にて生活することになりました。その後、二十歳くらいでしょうかその時にこんな話を母から聞いたんです。“敦、今元気?私はね新しいお父さんと娘で暮らしてるの”その瞬間、怒りが込み上げてきました。私のことを乱雑に扱い、ついには捨てた。そのせいで養護施設で暮らすことになったことをあの人は今、どんな気持ちでこの電話をかけたのだろうと。掛ける言葉なんてありません。すぐに切りました。でもその時、一つだけ心残りがあったのです。娘のことです。きっと娘は母親が昔、虐待をしていたなんて知りようがないでしょう。可愛そうだなという気持ちに加え幸せに生活してほしいという気持ちがあったのです。私は最低な親の子供から生まれ、最低の親に暴力を振るわれた。私のようにはなってほしくはないから」
「…最低の親の子供…とは?」疑問に思い、凛は春海に訊いた。
「ああ。そうでしたね。話を戻し、私の父親の親にはオリビアがいますよね。彼女は不倫をしていた。祖父と結婚したのは20代。そして、オリビアは私の父を生んだ頃、イギリス人のトミー・アダムと付き合っていたんです」
「え!?」紀彦と凛は思わず声を出して驚いてしまう。
「祖父が戦争にて亡くなると、オリビアはトミーと結婚したいことを伝えた。しかし、トミーは仕事の都合でアメリカへ行かなくてはいけなくなった。トミーももちろん結婚はしたかったと伝える。しかし、仕事があるとトミーは別れようと告げいなくなったそうです。その後、オリビアは60代でエドワード氏と結婚したんです。ですが60代では子は産めないため子供が産めない体だと偽ったんだそうです。自分の年齢にコンプレックスを抱いていたのかもしれないですね。有名の鍵師ですから60代の妻と生活していると見られたら嫌だったのかもしれないですね。エドワード氏が若いですから。エドワード氏を守るため、オリビアは全てを偽ったんですよ。そして鍵づくりの提案。嬉しかったと思いますよ。きっと体調を気遣い、休んでほしいと言ったのもエドワード氏を大切に思っているからでしょうね。その後、オリビアは不慮の事故にて亡くなってしまう。それからエドワード氏はその鍵を川に放り投げた。とありますが私は違うと思ってます」
「え?」
「これまで様々な文献を見てきました。ですがエドワード氏がそんなことをするような人だとは思いません。むしろ、完成させたんじゃないかと。例の鍵、写真で見たことがありますが随分と古びていました。どこに名前が彫られているかわかりませんでした。しかし、今ならなんとなくわかります。きっと彼は自分の名前とオリビアの名前を入れたかった。写真を見ていると一部くぼんでいるところが二箇所ありました。一つはエドワードの名前が。もう一つ。それがどうしてもわかりませんでした。ですがきっとそこにはオリビアの名前が彫られていたのでしょう。きっと彫ったのは形が完成してからだと思われます。そのため、オリビアが亡くなった際はまだその名前が彫られていなかった。だから未完と言った」
なんとなく、春海の話にはすごく説得力があるように感じられた。きっと自身の過去も踏まえ様々な気持ちを込めているのだろう。
「その後、エドワード氏は自殺を図った。その理由はなにか。きっと不倫のことを知ったのだと思います。細々の紙。きっとそこには不倫について書かれていた。きっと私の父が送ったのでしょう。生きているのは彼しかいません。まあトミーもいますが彼が不倫のことを知っていると思えません。オリビアが亡くなったのを知り、エドワード氏に送ったのでしょう。それを読んだエドワード氏はどう思ったでしょう。きっと大変ショックを受けたでしょう。彼は情に厚い人です。一緒にオリビアの罪を被ったのかもしれませんね。オリビアの妻として。その鍵はきっと私の父に送ったと思われます。これは大切にしてほしいと」
話を終え、春海は一息ついた。腕時計に目をやると慌てた様子でこういった。
「少しいいですか?凛さん」
「あ…はい。全然」と凛は返事をした。
一体何の話だろうと思いながらも時間には余裕があるため話を聞くことにした。
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