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その後の奈美の様子を見て、凛の予想は当たっていたと分かった。
車を降りてからの奈美はずっと颯介のそばに寄り添い、次々と質問を投げかけている。
二人の間に、凛の入り込む余地はなかった。
最上階の26階へ向かうエレベーターの中でも、奈美は話し続けていた。
「駐車場、まるで高級車の展示場みたいでしたね~」
「タワマンの駐車場はどこもあんな感じですよ。会社経営者が多いので、節税対策なんでしょうね」
「節税対策?」
「会社の経費にして減価償却するためです」
「げんかしょうきゃく?」
奈美が何も知らない様子なので、凛が説明を始めた。
「車の購入資金を何年かに分けて経費に計上するの。そうすると利益が圧縮されて、法人税を軽減できるのよ」
「ああ、なるほど……」
奈美はよく分からなかったが、適当に相づちを打った。
エレベーターが最上階の26階に着くと、颯介は部屋の鍵を開け、二人を中へ案内した。
「どうぞ」
「失礼します」
「わあ~、素敵……」
部屋の造りは、凛が想像していた以上に豪華だった。
三人はまず、高層階からの景色を楽しめる広いリビングへ向かった。
「わぁ♡ 広い! 窓からの景色がすごいわ」
「東京タワーも見えますよ」
「キャッ、そうなの?」
奈美は窓辺に歩み寄り、颯介が示した方向を見つめた。
「わぁ~見えた~♡」
「夜になるともっとくっきりと浮かび上がりますよ」
「わあ~、夜の東京タワーも見てみたいです~♡」
二人の会話を聞いていた凛は、
(何これ? まるで恋人同士みたいじゃない)
颯介のそばに寄り添う奈美を見て、二人が妙にお似合いに見えてイライラした。
だがすぐに紅子の顔が浮かび、慌てて気持ちを切り替えてビジネスモードに戻った。
「全部のお部屋に手を入れますか?」
「うん、そうだね」
「水回りも?」
「もちろん」
そのとき、奈美が二人の会話に割って入った。
「えーっ、もったいない! キッチンなんてまだ新しいのに~」
そのとき凛は、以前颯介が言っていた言葉を思い出した。
『俺は手に入れた最上級の物件を、さらにグレードアップして次の人にバトンタッチしたい』
その言葉を思い出しながら、凛は颯介に尋ねた。
「このアイランドキッチンなんですけど、向きを変えても問題ないですか?」
「ん? 特に問題ないけど、どうして変えるの?」
颯介と同じように、奈美も不思議そうな顔をしていた。
「この角度だと、調理中に景色が見えませんから」
凛の意図がすぐに理解できなかったのか、奈美が口を開いた。
「え、でも、お料理中に外は見えなくてもいいんじゃ……」
「うん……」
疑問を抱く二人に向かって、凛は自分の考えを述べた。
「私はあえて見えるようにしたいんです。だって、お料理しながら外の景色が見えたら楽しくないですか? クタクタに疲れて帰って、家族のために料理を作らなくちゃいけない……そんな日に、もし目の前に素敵な夜景が広がっていたら、元気が出ると思いませんか?」
凛の説明を聞いても、奈美はまだピンときていない様子だった。
しかし、颯介は凛の考えに興味を示し、こう言った。
「うん、たしかにそうだな。せっかくタワマンの最上階に住むんだ。料理をするときも景色を楽しんだっていいかもしれないね」
「はい。私自身もそうなんですが、ぐったり疲れて帰ったときに、窓から素敵な夜景が見えたらいいな~って思うことがあるんです。だから、もし景色が見えれば、きっと毎日の生活が充実するんじゃないかと……」
凛の説明に、颯介は大きく頷いた。
「そういう目線で考えたことがなかったから、勉強になったよ。他にも思いついた案があったら、どんどん取り入れてみて。予算は気にしなくていいから」
「分かりました」
好きなようにしていいと言われ、凛はホッとした。
「それと、キッチンなんですが、このメーカーじゃなくても大丈夫ですか?」
「ん? そのメーカーだと何か問題なの?」
「実はこのメーカー、使う人への配慮が少ないってよく耳にするんです。だからちょっとお値段は張りますが、『コンフォータブルライフ』の製品を使おうかと思って……」
「『コンフォータブルライフ』はアメリカ製だっけ?」
「はい。あのブランドは、無駄な溝や段差がなく、掃除がしやすいと評判ですし、デザインもシンプルで使い勝手がよく、最近口コミで人気なんです。幸い、このマンションのディスポーザーは独立しているので、キッチン本体だけの変更なら問題ないかと」
「なるほど。このメーカーはそんなに人気がないのか……」
「はい……。たぶん企画開発が男性中心で、女性が求める機能が反映されていないのだと思います」
「なるほど……いやあ、本当に勉強になるよ。この調子で、女性目線の使いやすいキッチンにしてくれると助かるな」
「承知しました」
二人のやり取りを聞いていた奈美は、焦りを感じていた。
普段自分が扱っているファミリー向けマンションの知識では、とても二人の会話についていけない。
(ずるい……これじゃ、どうやってもかなわないじゃない)
これほどハイスペックな男性が、奈美の得意なお色気作戦に乗るはずがない。むしろ、そんなことをすれば軽蔑されてしまうだろう。
颯介のように完璧な男なら、これまで何人もの美女と派手に付き合ってきたに違いない。
もし今フリーだったとしても、彼を放っておく女性はいないはずだ。となれば、一刻も早く手を打たなければならない。
(一体どうしたら……)
そう考えた奈美は、ふと名案を思いついた。
窓の外を眺めるふりをしながら奈美はニヤッと笑い、すぐに作戦を実行した。
「あっ……」
突然、崩れ落ちるように奈美が床に倒れた。
「沢渡さん、どうしたの?」
「大丈夫ですか?」
二人が駆け寄ると、奈美はつらそうな表情を浮かべ、弱々しく言った。
「ちょっとめまいがして……」
「それはいけない。立てますか?」
颯介に支えられながら、奈美はか細い声で続けた。
「支えがあれば、なんとか……」
颯介は一瞬考えるような表情を見せたが、すぐに言った。
「家まで送りましょう」
その言葉に奈美は一瞬ほくそ笑んだが、具合が悪そうな演技を続けながら言った。
「でも、このあと予定があるんじゃ?」
「気にしないでください。二階堂さんとはまた日を改めますから。いいよね?」
そう聞かれた凛は、大きく頷いた。
「大丈夫よ、沢渡さん。気にしないで」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
奈美は颯介に支えられながらゆっくり立ち上がり、彼の腕にしがみついたまま玄関へ向かった。
なんとか地下駐車場まで辿り着くと、颯介は奈美を助手席に乗せ、凛に声をかけた。
「送っていくから、君も乗って」
「私は大丈夫ですから」
「遠慮するな」
「いえ、本当に大丈夫です。帰りに寄るところもありますし」
「そう? 悪いな。じゃあ、また連絡するから」
「はい」
凛は、二人が乗った車を見送りながら、
「なんなの、これ!」
と呟き、走り去っていく車をただじっと見つめていた。
コメント
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助手席乗りましたか、やっぱり…💢 でもなんだか、颯介さんもこの計画に気づいているような気がします!
家じゃなくて急患で救急病院🏥に置いてきたらいいよ、颯介さん🤪🤣 もちろんお支払いは奈美ご自身で💴❗️颯介さんも間違っても連絡先なんて教えないでね🙅
こんなお芝居はすぐわかるに決まってる🙄 逆に颯介さんが気づかないとでも思った? こんなのに引っかかるわけない! 凛ちゃんの仕事に対しての姿勢は際立ってたと思う✨