コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ごめん、」
再び謝る。
だが自分でも泣かせたことへの謝罪なのか、
傷つけたことへの謝罪なのか。
僕にもその謝罪の意味は分からなかった。
「うん」
「ごめんね」
「大丈夫」
ただただそれを数回繰り返した。
謝る事に僕の胸は苦しくて勝手に謝罪の言葉が口から心から溢れ出てくるようで。
『もう一度』とでも言うかのように僕がまた口を開いて謝罪の言葉を述べようとした時、
蒼葉くんは僕に抱きつきながら
「もう大丈夫だよ」
「だから泣かないで」
と言ってきた。
泣いているのはそっちじゃないか。
そう思いながら蒼葉くんを見つめる。
そんな僕の視界は窓ガラスに滴る雨粒越しに見る景色のようだった。
初めて人前で泣いたような気がする。
いや、そんなことは無いか。
きっとさっきのように思い出せないだけで、
きっと誰かの前では泣いたはず。
多分。
きっと。
そうに違いないんだ。
「里玖にぃ、落ち着いた?」
そう言いながら蒼葉くんは数分した頃に顔を覗き込んで聞いてくる。
「大丈夫だよ」
「さっきはごめん…みっともない姿見せちゃって…」
無理やり笑みを作り、見せる。
「みっともなくないよ!誰でも泣くでしょ?」
「だって子供も泣くけど、大人も泣く!ね?」
先程の怯えた瞳とは違う、
優しさの温かみを帯びた瞳色。
それを見るだけで微かに口角が上がる。
「仲直りもしたし…」
「『みどり遊び』しよ!」
満面の笑みでそう言ってくる。
「ぁ〜…僕、花冠とか作るの下手だから教えてくれる?」
「もちろん!」
先程よりも柔らかな雰囲気だと自分でも分かる。
いや、もし思い違いだったらどうしよう。
そう思いながら蒼葉くんを見る。
が、すぐにそんなことは無いと思えた。
なぜなら蒼葉くんは楽しそうにお花摘みをしているから。
そんな光景を見た僕の心には温もりが広がったから。
それより蒼葉くんってなんか███みたいだなぁ…
一瞬何か思い出した。
だが同時にノイズ音が頭に響いた。
思い出したのに思い出してない。
少し不気味で寒気がする。
そう1人で何かに怯えていると
「大丈夫?」
と言いながら蒼葉くんが僕の頭に花冠を乗せてきた。
蒼葉くんはにこにこ笑顔で、
それでいて自分の意見はちゃんと言える人で。
しかもどこか大人びた感じの雰囲気もあって。
どことなく僕の知っている誰かに酷く似ていた。
それのせいだろうか。
僕の心には温かさが広がっていくのは。
「大丈夫だよ」
そう言いながら無意識的に口角を上げた表情を見せる。
と、蒼葉くんも笑みを浮かべた。
「それじゃ、花冠の作り方教えるね!」
「まず最初はお花摘み!」
「こっちだよ!」
そう言いながら蒼葉くんは椛のように小さな手で僕の手を引っ張る。
スベスベもちもちの手。
いや、手と表すより『おてて』と表すに等しい。
てか…
「最初って紐とかで練習するもんじゃないの?」
先程のように心の声が漏れてしまう。
『やばい』と思い、手で自身の口を塞ぐ。
そんな僕の姿を見た蒼葉くんは
「里玖にぃって案外優しいところあるよね」
と言いながら小さく笑った。
それがなんだか可愛くて。
愛おしくて。
きっと弟が居たらこんな気分なのだろうか。
そう思った瞬間だった。
「っ、」
頭にイナズマが走ったような痛みを感じた。
「里玖にぃ?」
不思議そうな顔をしている蒼葉くん。
僕は必死に『大丈夫だよ』なんて装って。
なんでまたあの頭痛が…
そう。
先程のようなノイズ音といい、
” 何か “ を思い出そうとする度に酷い頭痛がし、言葉にするとノイズがかる。
「そういえばさっきのように『案外優しいところある』ってなんのこと?」
必死に話を逸らしつつ、そんなことを聞く。
「うーん…内緒!」
にこっと微笑みながらそう言う蒼葉くん。
「でもこれだけは言っておくね!」
「僕のこと傷つけないように喋ってくれてるっぽいけど、別に素を出していいんだよ?」
「だってそっちの方が気が楽じゃん〜!」
ほら。
こういうとこ。
こういうところが大人っぽさを感じる。
「…素出したらまたさっきみたいなことにならない?」
自分でも口から出てきた言葉に驚いた。
『僕がそんなことを思うなんて』って。
不安に感じることは無いと思っていた自分が、
こんなことを思うなんて。
『嘘であれ』と思い続ける。
「……ならないよ」
「絶対ならない!!」
僕の服を裾を強く引っ張りながらそう言う。
そんな蒼葉くんの顔は僕の目前にある。
その瞳は真剣そのものだった。
「…ほんとに?」
「うん!約束!!」
満面の笑みで蒼葉くんは小指を差し出してくる。
『約束を交わす瞬間』
互いの小指を絡ませて、
握って、
約束する。
口約束を交わす方法の1種。
僕は蒼葉くんの小指に自身の小指を絡ませる。
と、蒼葉くんは微笑みながら
「《約束の証》」
と呟いた。
その時、いや刹那の瞬間だけ蒼葉くんの瞳が翠色に揺らいだ気がした。
それを見て。
瞬きをして。
気づいたら何も無かったかのように元の瞳の色に戻っていて。
でも一つ違うことがあった。
それは僕の右手の小指に三葉のクローバーの草輪が括りついていたこと。
それは酷く頑丈に。
でも温かみを感じた。
クローバーの花言葉は『約束』
前に本で読んだことがある。
蒼葉くんは一体何者?
そう一瞬考えたが、辞めた。
蒼葉くんは蒼葉くんだから。
考えたってきっとキリが無いはず。
そう思ったから。