テラーノベル
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「じゃあ最初は定番のクローバーでやってみよっか!」
「クローバー?ってこの草のやつ?」
「ううん、そっちじゃなくて…これ!」
そう言いながら蒼葉くんは白い花、
シロツメクサを僕に見せた。
確かにそっちも『クローバー』と呼ぶらしいけど…
あまり聞かないから忘れていた。
「まず1番最初に重要なのは『茎の部分が長いものを選ぶ』こと!」
「もしかして、長くないと作れないとか?」
「ううん、長くなくても作れるよ」
「けど、慣れてない最初の頃は長い方が作りやすいんだ!!」
「なるほどね…」
確かに紐を結ぶ練習をする時とかも長い方がやりやすいもんね。
ある程度長いシロツメクサを集め終わった頃、
「じゃあまず、シロツメクサをプラス印に置いて…」
「上と左が花の部分ね!」
「あ、横のシロツメクサを上にしてね!」
言われた通りに置いていく。
…なんかデジャブを感じる。
前にも誰かにこうやって教えられていた気が…
そうしながら思い出そうとするも、
案の定それを弾くように頭痛がした。
「横に置いてる方のシロツメクサを2回半、下のシロツメクサに回し付けて…」
「それで上のシロツメクサは1回、2回と回し付けて結ぶ!」
「で、最初はこれで完成〜!」
完成…?
「え?これだけ?」
「うん!これだけ!」
なんかシロツメクサが飛び出てて次に何をしたらいいか全く分からない。
「次はね横と縦のシロツメクサのどっちかに同じように巻き付けてくの!」
「で、それを繰り返して行ったら理玖にぃが知ってる花冠に近くなるよ!」
『ふ〜ん…』と小さく呟きながらシロツメクサを一つ、一つと編んでいく。
もちろん、前の僕なら『つまらない』と言ってここを離れて違う遊びをしていただろう。
でも今は違う。
シロツメクサを編んでいることがつまらないとかじゃなくて、
単純に今の僕は蒼葉と居るこの時間が心地よくてシロツメクサの編み込みがつまらないなんて思わなかった。
「完成!」
「理玖にぃ、上手だね!!」
そう言って褒めてくれる蒼葉くん。
なんて優しい。
でも自分ながらにこれは上手く出来たと思う。
昔作った時よりも…
ん?
昔?
僕前に花冠作ったことあったっけ?
でも今なんで────
「これで理玖にぃも色んな花の花冠に挑戦できるようになったね!」
そんな嬉しげな蒼葉くんの声によって現実へと引き戻される。
「ネモフィラでも作れる?」
「うん!」
「花の種類が1種類じゃなくても作れるよ!!」
そう言いながら手を広げる。
途端、蒼葉くんの手から溢れるかのように色んな種類の花々が咲き誇った。
「……綺麗、」
無意識的に言葉が零れる。
「でしょ?」
ニカッと歯を見せながら微笑む。
てかネモフィラで思い出したけど蒼葉くんはミューエのこと知ってるのかな?
というか水狐と水梟の存在のことも忘れてた…
先程、弓矢を飛ばしてきた女性がいる場所は水狐と水梟が台座に乗っていなくても潜ることが出来た。
じゃああいつらを使う時はこの蒼葉くんの場所を開くだけ?
もしかしたら蒼葉くんの方が知ってるかもしれない。
そう思い、聞いてみることにした。
「蒼葉くんってさミューエって子、知ってる?」
「うん!!ミューエちゃんでしょ?」
「知ってるよ!!」
「たまに一緒に遊ぶんだ〜」
遊ぶ…
ってことはやっぱり草遊びで遊ぶのかな…
「あ、でもねいっつもミューエちゃんが僕に会いに来てくれるんだ〜!」
「僕は鳥居の外に出られないから!」
出られない?
もしかして前に会ったあの女性も出れないのか?
てことは水狐と水梟も見せれないのか…
「里玖にぃ?どうしたの?」
「いや…」
「なんか体が水っていうか液体みたいな狐と梟の話したくて…」
「何言ってるか分かんないと思うけど…」
自分でも『何言ってんだろ』って思ってる。
『何でもない』って言うはずが、
間違えて本心を伝えてしまった。
「水みたいな液体みたいな身体の狐と梟?」
「あ!もしかしてミューエちゃんの眷属のこと?」
「眷属?」
「うん!ミューエちゃんは僕 “ たち ” より偉い人だから眷属っていうのは使者とか遣いって言った方がいいかな?」
眷属か…
てか今、『僕たち』って言った?
「じゃあ蒼葉くんに眷属は居ないってこと?」
「うん!」
「僕はこの初夏の都を1人で守ってるんだ!!」
「初夏の都?」
話をしてけばしていくうちにどんどん疑問点が生まれてくる。
「知らないの?」
そう言いながら蒼葉くんは『よくここまで来れたね』と言うかのように少しクスリと笑った。
それが水狐にとても似ていて、
少し腹が立った。
が、水狐と違って可愛さを持ち備えている蒼葉くんはそれも可愛いの1部になってしまう。
「水狐と水梟の眷属たちの役割は、蝶集めに役立つのと、各都の鳥居の結界を解除してくれるっていう役割があるんだよ!」
蝶集め?
そういや最初にミューエに会った時も言ってたっけ。
確か僕の使命とかなんとか…
「それで初夏の都っていうのは今、里玖にぃと僕がいるこの場所で」
「ここから少し歩いたら冬の都があるんだ!」
冬の都?
でもさっき歩いた時にはそんなの見なかったけどな…
「あ、でも今はお姉ちゃんの所に会いに行ってるかも」
「もしかして各都を守る存在がその場所に居ないと鳥居って現れないとか?」
「よく知ってるね!!里玖にぃの言った通り、その都を守るべき存在が不在の時は、鳥居は消えちゃうんだ!」
「え、でも鳥居からは出れないんじゃなかったっけ?」
「ううん、僕は出れないだけで、冬の都の双子のミイちゃんとユイちゃんたちは出られるんだ!」
「しかもミイちゃんとユイちゃんと梅雨の都の月姉ちゃんは姉妹なんだって!」
姉妹…
てことは冬の都を守るべき存在であるミイとユイは姉が居る梅雨の都に遊びに行ってるから鳥居が消えてしまってるのか…
そもそもなんで双子らは出られるんだ?
それも謎でしょうがない。
「あとは…、夜光りの都って場所があって……」
「そこは夜にしか行けないんだ」
「朝は鳥居すら見当たらなくて…」
夜にしか行けない?
てか夜ってどの時間帯の夜のことを言っているんだろうか。
夜のはじめ頃のこと?
それとも真っ暗闇の深夜のこと?
まぁ、後々聞けばいいか…
「もし、里玖にぃが夜光りの都に行く用事があるなら絶対夜は気をつけて」
僕の目の前で人差し指を立ててそう言う蒼葉くん。
「気をつけて…って、何を?何に?」
「……夜は██████だから」
またノイズがかる。
話の内容的には今までの記憶がなんやかんや的なやつじゃないのに。
そう思いながらノイズがかった言葉の正体を探る。
その際に頭痛も感じず、尚更謎に包まれる。
一体夜に何が起こるんだ?
今までの楽しげな蒼葉くんのトーンとは違い、
今言った言葉は低く、
注意を強調しているようだった。
「…夜光りの都に行ってそのまま朝を迎えたらどうなるの?」
話を逸らすようにしてそんなことを聞く。
が、聞かなきゃ良かったなんて思ってしまった。
「その時は……僕も、知らない」
そう小さく呟くように蒼葉くんは言った。
そのせいで余計に不気味さが増す。
「そして最後が天気雨の都」
「イマイチ僕もここについては知らないんだよね…」
「謎!!不思議!!って感じ」
なるほど…
というかなんでミューエは僕にそれすらも教えないで消えたんだ?
せめて蝶集めが何なのかとか教えてから消えればまだ良かったものの、
気づいたら消えてたからな…
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