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「では、撮りますよ。ハイ、チーズ」
小さく響くシャッター音に続き、男性が『もう一枚撮りますね』と続けた後、レンズを向けられた。
美花は両手を下ろし、圭に寄り添うと、彼は美花をさらに抱き寄せ、顔を近付けてくる。
(うわ……おにーさん…………じゃなくって、けいトンの顔、めっちゃ近いっ……)
鼓動が波打つのを美花は抑えつつ、笑顔を作った。
「ではいきます。ハイ、チーズ」
初々しいカップルを祝福するように、軽やかに鳴るシャッターの音。
「すみません、ありがとうございました」
男性に近付き、スマートフォンを受け取った圭が、今度は声を掛けてくれた二人の写真を撮るらしい。
少し離れた場所で、彼の背中を眺めている美花は、今も圭と想いを通わせたのが幻想のように感じてしまう。
昨年のクリスマスの夜に出会ってから、もうすぐ一年。
圭が美花に対して、嫌悪感を剥き出しにしていたのが、既に懐かしい。
写真を撮り終えた彼が、男性に近付くのを見て、彼女も後に続く。
「ありがとうございました」
美花と圭は、目の前の男女に会釈をしながら、それぞれ礼を述べる。
「いつまでも仲良くね」
「はいっ……ありがとうございました」
女性に柔和な眼差しを向けられた美花は、はにかみながらペコリとお辞儀をすると、年配の男女は、青山通り方面へと立ち去る。
「俺たちも、そろそろ行こうか」
「うん」
美花の手は、圭に握られながら指先を絡め取られ、絵画館方面に向かって歩いていた。
不意に、圭が腕を引き、脇道に逸れた。
数十メートルほどの道にも、道の両端に銀杏の木が植え込まれているけど、ライトアップはされていない。
宵闇の中に、朧気に黄色が浮かぶ道を、圭は黙ったまま歩き続けている。
人が疎らになった場所で、彼が木の陰に彼女を引き寄せたと同時に、ライトアップが終了し、辺りが暗さを増した。
銀杏の木に、美花は背中を預けさせられ、圭は取り囲むと、深い陰影を湛えた表情に色香を纏わせた瞳で美花を射抜いている。
「……っ…………け──」
「美花……っ」
彼女の顎に親指を掛けながら、彼は美花の唇を塞いだ。