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瑠衣は侑の奏でる『トランペットラブレター』を、一音たりとも聴き逃さないように耳を澄ませた。
時折、舞台上の侑と眼差しが絡み合う瞬間があるのは、気のせいだろうか？
ストイックで厳しいあの侑が、柔らかな音色でバラード調の旋律を演奏しているのは、どこかミスマッチな気もするし、イケメントランペット奏者が愛を伝える楽曲を演奏しているのも似合う気がする。
前半の盛り上がる転調の旋律に、瑠衣の瞳の奥が熱くなり、ジンジンと痺れるような感覚に陥った。
(ヤバッ…………泣きそう……)
会場は静寂に包まれ、女性特有の歓声もなく、コンサート来場者は、侑の演奏に聴き入っている。
それにしても、彼はいつこの曲を見つけ、練習していたのだろう？
侑が家で『トランペットラブレター』を練習しているところは一度も見ていないし、聴いてもいない。
ならば、彼が仕事で立川音大か東京総芸大に行っている時、レッスンの合間に練習していたのだろうか？
(奏ちゃんと先生へ気持ちを伝えるために練習していこうって決めたのに…………先生……フライングしてズルいよ……)
ズルいと思うのに、やはり好きな人が紡ぎ出す旋律を聴けるのは嬉しい。
再び転調し、曲の頭と同じ調へ戻ると再現部が演奏される。
ピアノの伴奏も盛り上がりを見せ、侑のトランペットの演奏にも熱が込められていき、彼は吹きながら眉間を寄せる。
曲のクライマックス部分を侑が演奏すると、彼のトランペットのベルが、瑠衣の方へ向けられているように見える。
小さな背中にゾクリと冷気のようなものが迸り、気付くと濃茶の瞳から雫が頬を伝っていた。
曲のラスト、後奏に続く高音のロングトーンに、瑠衣の心が震え続けて止まらない。
惚けた表情で、音の余韻に浸っていると、会場の拍手で彼女は我に返り、侑は既に一礼を済ませ、舞台袖へ向かって歩いている。
(ヤバい…………すっかり聴き入ってた……)
侑の演奏に魅了されていた瑠衣は、身動きが取れないまま、ホールの隅に佇んでいた。
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