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選定会もミニコンサートも無事に終わり、中倉楽器本店のスタッフと侑の伴奏をしてくれた友人に挨拶を済ませた後、車に荷物を積み込んでいる時、彼が思いついたように口を開いた。


「…………このまま帰る気がしないな。明日は日曜日だし、寄り道するか」


腕時計をチラリと見やると、まだ夕方前だ。


「そういえば、瑠衣とデートした事ないよな? せっかくだし、このままドライブに行くか」


思い返すと、侑と二人で出掛けたのは、買い物ばかりのような気がする。


娼館の火災があった時とその翌日は、瑠衣の物を買い出しに行き、年が明けてから楽器を買いに行き、それ以外で出掛けたのは、三月の終わりに近所のホールで友人、音羽奏のコンペティションを聴きに行ったくらいだ。


(私が娼婦だった頃は、同伴で新宿のホテルで一夜を過ごしたけど…………あれは私にとっては仕事みたいなものだったし……)


彼女が考えている事を手に取るように、侑が意地悪な笑みを映しながら、


「…………お前が娼婦だった時、新宿のホテルで一緒に過ごしたが、あれはデートに入るのか?」


と、瑠衣の顔を覗き込みながら問い掛ける。


侑がよく見せる片側の口角を器用に吊り上げる表情に少しムッとしながらも答えた。


「あれは『娼婦の愛音』としての仕事でしたけど…………先生と初めて娼館以外の場所で過ごした『特別な夜』だったので、デートと思いたいですっ」


瑠衣の言葉が嬉しかったのか、彼が頬を緩めつつ、目を細めながら『…………そうか』と呟く。


「今から行くドライブは、もちろん『九條瑠衣』として誘っているんですよね?」


「…………当たり前だろ」


侑と話をしていると、瑠衣は自分が『愛音』なのか『九條瑠衣』なのか、分からなくなってしまう時がある。


彼は時々、娼館で過ごした事の話をするが、やはりまだ侑の中では瑠衣の中に『娼婦だった愛音』を重ねているのかもしれない。


客と娼婦として再会した二人であるから、仕方がないと言えばそうなのだが……。




「ならば、そろそろ行くか」


侑が運転席に乗り込み、エンジンを掛けると、瑠衣は慌てて助手席に回り、黒のSUV車は滑らかに発進していった。


(先生とドライブに行くのは初めてだし、楽しみだな……)


どこへ連れて行ってくれるのだろう? と期待をしつつ、瑠衣は車窓に流れる景色を見やりながら唇に笑みをを滲ませた。

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