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2話目を読んでくださり、ありがとうございます🐰 えなちんとは⁉️ 続きもお楽しみくださいませ🎵
章くんが家に帰ってこない日が続くと、さすがに私でも不安になる。きっと忙しいからなんだろうけど、体調の心配だってする。
でも章くん自身も、帰ってこないことを連絡すらしてこない日が当たり前になってきていて、そこはなんか違う気がして……。
極秘結婚する前は、そんなことは滅多になかった。遅くなる時も連絡はくれていたし、帰れない日も連絡はきちんとくれた。
(忙しいんだから察して……ってことなのかな?)
私たちの会話が、直接的なものもチャットも、日に日に減っていっていることを実感し、何となく寂しく思ってしまう。
こんなこと言ったら、きっと章くんに鬱陶しがられてしまうだろうから、言えないけど。
* * *
そして数日後の夜。
今日も今日とて、章くんの帰りが遅い。こうなってくると帰ってくるのかどうかも怪しいところではあるのだけど。
私はいつも通り、夕食も済ませてリビングでくつろいでいた。
すると、チャットでメッセージが届き……。
【帰れない】
章くんからのチャットだった。
最近は帰ってこない時、連絡ないパターンがほとんどなのに、今日は珍しい。
たった一言だけど、その一言が少しだけ嬉しく感じてしまうのだから、私もある意味重症だ。
しかも、『今から帰る』とかじゃなく『帰れない』なのに。本来なら心配するところなんだろうけど、状況が分かっただけでも安心してしまう。
(章くんの仕事が仕事だし、帰れない時や遅い時だってあるよね……)
もしかしたら最近遅かったり、帰ってこられないのは、何か理由があるのかもしれない。
例えば……新しいお仕事でも始まったとか?
* * *
翌日、珍しく夜の9時くらいに帰ってきたため、私は思い切って尋ねてみた。
「ねぇ、章くん。最近、帰りが遅かったり帰ってこられなかったりするでしょ? もしかして、何か新しい仕事でも始まったとか!?」
私の質問に答えるのが面倒だったのかどうかは分からないけど、章くんに軽くため息を吐かれてしまった。
「あっ、ごめん。守秘義務もあるよね。無理には聞かないから」
「まぁ、別にしおりが口外するとか思ってないし、心配かけちゃいけないから一応話しておくよ。新しいドラマの撮影が始まったんだ」
「そうなんだ!? おめでとう! 少し前から遅かったりしたのも、その影響?」
「えっ……まぁ、そんなとこ」
何となくだけど、章くんの反応が微妙に挙動不審だった。私の質問に否定はしないものの、あまり深く突っ込まないでほしい感じがすごく出ていて、今日はそれ以上聞かないでおくことにした。
「だから、これからも帰ってくる時間はバラバラだと思うし、帰ってこない日もあるかも……」
遅くなるのは分かるけど、泊まりがけの撮影とかもあるのだろうか。
私はその業界に詳しいわけじゃないから、よく分かんないけど。
不思議に思いつつも、私は頷くことしかできなかった。
「そっか。大変だね」
「……」
何で最後は何も言わなかったのだろう。聞こえていなかっただけかもしれないけど。
私がそんな風に思いながら、章くんの顔をじーっと見ると、それに気づいたのか……。
「なーに、今日は早く帰ってきたし、イチャイチャでも……する?」
私の大好きな章くんのいたずらな笑顔でそう言われると、ドキッとしてしまう。
でも口から出た言葉は……。
「えっ」
「あれ? 違った? なんかすげぇ見つめてくるから、甘やかしてほしいのかと……」
想定外の反応がきたため、逆に私が反応に困ってしまった。結婚する前までなら、即答で章くんの胸に飛び込み、甘えにいってたけど、なんだろう……この妙なモヤモヤは。
原因は分からないけど、腑に落ちないことが重なっていて、素直に甘えられない自分がいる。
「そんな風に見えた……?」
(こういう聞き方がズルいかな……?)
「なんとなく。……ってか、もうお風呂って準備できてる?」
うまくかわされた感が否めないが、私の聞き方もよくなかったのかもしれない。
「うん、できてるから、いつでも入ってきていいよ」
「じゃあ、一緒に入る?」
「……!? い――」
「ははっ、冗談だよ……。しおりも疲れてるだろ? ひとりでゆっくり入りなよ。俺と入ってたら、のぼせちゃうだろうし」
『いいの!?』って返そうとした言葉にかぶせ気味に、章くんから言葉がかえってきた。
(冗談、か。私は一緒に入りたかったんだけどなぁ……)
喜ばせた瞬間に落としてくるとか、これが付き合ってすぐのカップルとかなら「も~、なんでそんなこと言うの~!?」とか言って、逆にイチャイチャモードに入れるんだろうけど、今の私たちには、どういうやり取りが正解なのかも分からない。
章くんはそそくさと、お風呂場へと向かった。でもひとつだけ普段と違うことが……。
家にいる時、結婚するまでは、スマホも無造作に色んな場所に放置しっぱなしで、私にスマホの行方を聞いてくることが多かった章くん。
でも最近は、肌身離さず持っている。
そんなスマホを、珍しくテーブルに置いたままになっているのだ。
(あれ? 今日は持っていかないのかな?)
単に、スマホがテーブルに置かれているだけ。それだけのことなのに、無性に気になってしまった。
◆ ◆ ◆ side 章 ◆ ◆ ◆
しおりとはもう長い付き合いだ。昔からの幼なじみで、俺が俳優に憧れて芸能界に入ってからも、一番近くで俺のことを支えてくれた。うまくいかなくて半ば、自暴自棄になったときとかもあったけど、しおりはそんな俺をいつも信じて応援してくれていた。
「章くんならできるよ! 章くんのこといっぱい見てきた私が言うんだから大丈夫!」
なんて言って、自信を持たせてくれたり、本気で諦めかけてる時には怒られたこともあったけど、なんだかんだ、俺にとって強い味方だった。
そして俺たちは、付き合うようになって数年後、同棲を始めた。そこで満足してればよかったんだけど、ケジメをつけようってことになり、周りには内緒で極秘結婚をすることに。
周りに内緒といっても、一部の人だけは知ってるけど。さすがに、俺としおりだけが知ってるというわけにもいかないから。
だけど、極秘結婚してからというもの、日に日に仕事が忙しくなっている。
別に結婚したから忙しくなったわけじゃないし、色々お仕事を貰えるのは有難いことだ。
そんな忙しさの中でも、俺は、癒しは欲しいわけで……。
しおりとの生活も慣れてきて、刺激が足りないというかなんというか。もちろん、しおりが悪いわけじゃないけど、結婚前の同棲生活が長かったのもあってか、変わり映えしない感じに少し飽きてきてしまっている部分もある。
そんなときに出会ったのが、松原恵那さんだった。
俺よりひとつ年上の人気女優だ。最近撮影が始まったドラマでの共演もそうだけど、その少し前に共通の知人を通じて知り合った。
最初は、ただの同業仲間だったけど、いつの間にか……そういう関係になっていた。
もちろん、しおりにはバレて……ないはず。
恵那さんは、ゆるふわな感じのロングの髪型で可愛い系の女性。同業者の中でも、特に男性に人気がある。
世間的には、クールビューティーな感じに見えてるのかもしれないけど、実際は結構肉食系のようで、そのギャップも俺的にはたまらない。彼女とのチャットは、しおりとはまた違う楽しさがある。
恵那【今日は一緒にお泊りできるって聞いてたから楽しみにしてたのになぁ】
【今度必ず埋め合わせするから。楽しみは後に取っておくほうが燃えるだろ?】
恵那【うわ~、奥さんいるのに言うね~ww】
【俺は主食より、デザートを美味しく食べたいんで】
恵那【そっか~、私がデザートなんだね! どんどん食べて~なんてね!】
【今度泊まるとき、隅々まで食させて】
俺たちはどんどん深みにハマっていった……。
◆ ◆ ◆
章くんがお風呂に行ってると、テーブルに置いてあるスマホが着信を知らせてきた。
(章くんに知らせたほうがいいのかな? 仕事の連絡だったら早いほうがいいよね!?)
そんな風に思い、誰からの着信かディスプレイを見たのが間違いだったのかもしれない。
そこに表示されている名前が『えなちん』と書かれていた。
(『えなちん』って誰?)
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